31人が本棚に入れています
本棚に追加
1.序章
「逃げ切れない」
「諦めるな!」
だが赤子を抱えたままの逃亡にも限界がきていた。女の足で砂利道を走るのは辛かろう。
草履が脱げかけ、転びそうになった身体を支えてやる。
「この子だけでも」
愛する者の瞳から涙が零れる。
出会わなければ良かったのか。贄のまま仲間と貪れば良かったのだろうか。
無理だ。俺はもうこの女無しでは生きられぬ。
狩る者と狩られる者。生きとし生けるものはその二つに分けられる。
弱肉強食。生きるために食べ、生かすために殺される。
人は生き物を殺し食らう。俺たちが人間の血肉を食らうのも同じ事。
お互い生きるため、生き残るために殺し合う。
けれどこの女だけは……
たとえ餌である人間だとしても、神子と呼ばれる者だとしても……
俺が必ず守り抜く。
「この子も皆本の家へ」
一人は既に奪われていた。
でもこのままでは、遅かれ早かれ仲間に殺されてしまうかもしれない。
それならいっそ……一瞬頭を過ぎったものの、それも無理な相談だった。
最初のコメントを投稿しよう!