1.序章

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1.序章

「逃げ切れない」 「諦めるな!」  だが赤子を抱えたままの逃亡にも限界がきていた。女の足で砂利道を走るのは辛かろう。  草履が脱げかけ、転びそうになった身体を支えてやる。 「この子だけでも」  愛する者の瞳から涙が零れる。  出会わなければ良かったのか。贄のまま仲間と貪れば良かったのだろうか。  無理だ。俺はもうこの女無しでは生きられぬ。  狩る者と狩られる者。生きとし生けるものはその二つに分けられる。  弱肉強食。生きるために食べ、生かすために殺される。  人は生き物を殺し食らう。俺たちが人間の血肉を食らうのも同じ事。  お互い生きるため、生き残るために殺し合う。  けれどこの女だけは……  たとえ餌である人間だとしても、神子と呼ばれる者だとしても……  俺が必ず守り抜く。 「この子も皆本の家へ」  一人は既に奪われていた。  でもこのままでは、遅かれ早かれ仲間に殺されてしまうかもしれない。  それならいっそ……一瞬頭を過ぎったものの、それも無理な相談だった。
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