1.序章

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「先の子はもう殺されているかもしれぬ。血鬼(けっき)の血を引いた赤子など許すはずがなかろう」 「でも……」  それ以上は何も言わなくなった。  赤子も落ち着いたのか今は静かに寝ている。まだ柔らかな髪を撫でた。 「お前に似て愛らしいな」 「眉の辺りはあなたに似ています」 「じゃじゃ馬の血を引いているからな。きっと元気な子になるだろう」 「酷い」  久しぶりに愛する者の笑顔を見た。  ずっとこんな時が続けばいい。そう願わずにはいられない。 「皆本の家へ戻ろう」 「はい」  一縷の望みをかけて引き返す。  だがそれは水泡に帰する夢でしかなかった。
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