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空には数えられるほどの星しか瞬いておらず、少ない街灯だけでは歩くのも心許ない夜。
大部分の人が寝静まった丑三つ時。聞こえてくるのは風と、廃工場のプレハブが揺れる音だけ。
雲間から顔を出した月が人影を照らし出す。
音もさせずに姿を現した者たち。もしくは最初からそこにいたのか。
男と思われるものが三……いや四人。
そして小柄でもなく大柄でもない女が一人。胸元まである黒髪が揺れている。
だが顔は分からない。心許ない光源のせいではなく、みな仮面をつけているからだ。
イタリアのカーニバル、mascherata《マスケラータ》で被るような装飾のついたものではなく、黒一色のハーフマスクだ。
身に纏っているものも全て黒。人の目では夜の闇に紛れ、そこに存在していることすら分からないかもしれない。
地面に雫が落ちた。ゆっくりと一滴ずつ。月明かりで見える色は黒……だろうか。
汗や涙、水の類いでないことは確かだ。多分血であろう。
何故ならその雫は女の手、正確には傷のついた掌から落ちているからだ。
刃先も赤く染まっている。
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