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3.金と銀
「火焔!!」
月を覆い隠した雲を、吹き飛ばすような声が響いた。
足先から崩れ落ちていく身体。地面に積もっていく砂がまた一つ。
骨から肉が剥がれ落ちるのではなく、ただ身体が砂に変っていく。
見た目は人間と似て非なる異形の者。
人の血肉を好み、身体は刃物で傷つけたところで死にはしない。
首を一刀両断するか、もしくは……
まことしやかに囁かれる異形の正体。
鬼か吸血鬼か。噂に尾鰭がついて拡散されていく。
誰がつけたのかは分からないが、その者たちは血鬼と呼ばれていた。
だが正体を知るものは少ない。血鬼を狩る者立ちがいるからだ。
見渡せば、あちらこちらに砂の山が出来上がっていた。
火焔と呼ばれた男は、自分を抱きかかえる男へと手を伸ばす。
「伐夜……」
眼帯で覆われていない右目から涙が零れていた。
「喋るな。すぐに手当てをしてやる」
「もっとお前と遊びた……」
途切れた言葉と共に崩れ落ちた身体。
伐夜の手に残った砂が、風に吹かれて宙に舞う。残った砂を砕くように拳が握られた。
砂の山に残った眼帯を拾い上げる。ポツリポツリと落ちる涙。
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