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(まずい)
あたしは心のなかで舌打ちした。
声をあげることはできない。口にはさるぐつわをかまされている。
ついでに言えば、両手は後ろで縛られているし、両足首も縛られている。
まったくもう、十五歳の乙女に、なんて手荒なまねすんのよ。
文句を言いたいけど、いまは言える立場にない。
あたしは、いとこのタオといっしょに拉致されている。公園にいるところを、五人の男たちに捕まえられ、ワンボックスカーに押しこまれて、市の郊外にある廃工場に連れてこられた。
いまあたしたちがいるのは、地下にある、コンクリートの壁で囲まれた部屋だ。大きさは、教室よりちょっと小さいくらい。
あたしは薄目をあけて、観察を続ける。
片ほうの壁ぎわには、鉄製の戸棚が十個ばかり向き合って並べられている。逆のほうの壁ぎわには、スチール机がひとつと、キャスター付きの安っぽい椅子がひとつ。設備といえばそれくらい。物置かなにかの部屋だったんだろうか。
天井には、白熱電球だか電球型LEDだかわからないけど、二個点灯している。ソケットは全部で六個あるけど、電球が入っているのは二個だけ。
壁に窓はない。電球以外の明かりというと、入口のドアの上のほうが小さな窓になっていて、そこからかぼそい光が入ってくるだけ。だから部屋のなかは薄暗い。
あたしとタオが転がされているのは、その薄暗い部屋のすみっこだ。
さて、もちろんこうして拉致されたこと自体、とてもまずい状況であることは確かだ。でも、あたしが(まずい)と思ったのは、ちょっと違う話だ。
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