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あたしが前回人肉を食べたのは、二週間ほど前のことだ。だから普通なら、禁断症状が出るまであと三週間あるはずだった。なのにいま、たった二週間でそれが出てきた。
なぜだろう?
拉致された、というストレスのせいかもしれない。
拉致されたときに嗅がされた薬のせいかもしれない。
原因はよくわからないけど、とにかくまずい。このまま放っておくと、うろこはどんどん全身にひろがっていき、あたしは寄生種の体に変化してしまうだろう。
あたしはタオのほうに目を向けた。
あたしから四、五メートル離れた床に、メガネをかけた、ひょろりとした体つきの男の子が横たわっている。それがタオだ。あたしと同じように手足を縛られ、口にさるぐつわをかまされている。まだ薬がきいているのか、眠っているようだ。
くり返しになるけど、タオはあたしのいとこで、歳は同じ十五歳。あたしの使い走りとして、いつもアゴでこき使って、言うことをきかせてきた。
そんな奴に、あたしが寄生種になった姿を見られるなんて、ごめんだ。
「おっ、気がついたようだな」
そのとき、あたしの顔をのぞきこんだインテリっぽい眼鏡の男がそう言った。男は少し離れたところに立っていた別の男に「社長」と呼びかけた。男たちの人数は六人に増えていた。
じきにカマキリのような顔の中年のオヤジがあたしのそばにやってきて、あたしを見おろしてニヤリと笑った。
「黒川咲ちゃんだね?」
ゾッとするような、ねっとりとした声だった。
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