1/6
前へ
/34ページ
次へ

 ことの始まりは今日のことだ。  よく晴れた土曜日。あたしはいとこのタオを従えて、街へ洋服を買いに出かけた。  もちろん、デートなんて甘いものじゃない。あたしは十日ほど前に左の手首をねんざしていた。しばらくの間、物を持つのに不自由した。ねんざは治ったけど、買い物をするにはちょっと不安で、だからタオを荷物係としてつれていくことにしたのだ。  タオについてもう少し補足すると、フルネームは深町(ふかまち)タオ。通っている高校もいっしょなら、学年も同じ一年生だ。  二年前、シングルマザーだったタオの母親が交通事故で亡くなると、母親の兄であるあたしのパパがタオを引きとった。  といっても同居はしていない。  あたしの家はマンションの4LDK。そのとなりに、パパが書斎兼物置として使っている2LDKの部屋があったので、そこにタオの勉強部屋兼寝室を置いた。食事はあたしたちのところでいっしょにとるけど、夕食後は自分の部屋に行ってもらっている。  あたしのママは三年前に家を出ていった。その後はパパとふたり暮らし。パパは毎日仕事で帰りが遅いから、タオをいっしょに住まわせると、夜、思春期の男女がふたりだけになる。なにか間違いがあるといけない、というので、パパがタオをとなりの住居に住まわせたのだ。  まったくバカみたいな心配だ。  タオは、メガネをかけた、いかにもガリ勉くんといった感じの、ひょろひょろとした男の子。一方のあたしは、いまはやめちゃったけど、小学校ではずっと空手をやっていた。だから、こんなひょろひょろ男子にマチガイを起こさせるわけ、ないじゃない。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加