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「タオ」
あたしが警告を発するのとほとんど同時だった。
男たちがすばやく動いた。
ひとりがタオを抱きかかえるようにして、もうひとりがタオの口に白い布を当てた。
あたしにも、うしろからひとりが抱きつき、もうひとりが白い布を当ててきた。空手の動きはまだあたしの体に残っているはずなのに、抵抗するひまもなかった。甘ったるい匂いが鼻から入り込んできた。息を止め、腕をバタバタさせて抵抗したけど、いなされたという感じで空振りに終わった。
意識がふっと遠のいて、体がくたっと折れるのがわかった。男があたしの体を支えていた。あたしは気を失った。
正確に言うと、人間としての黒川咲が気を失ったということだ。
もうひとりのあたし、寄生種である黒川サキの意識は覚めていた。
ふだん眠るときなんかでも、こういうことはよくある。咲のほうは寝入ってしまったのに、サキの意識はまだ起きている、ということが。もっとも、そんなとき、咲の体は眠って動かないので、サキであるあたしもたいくつして、じきに眠ってしまうんだけど。
ただし、いまの場合は眠るどころではなかった。
サキとしてのあたしは、意識を保ったまま、ことの成り行きを見守らなければならなかった。
といっても、咲の肉体は目をとじて動かないから、あたしが外部から得られる情報としては、耳から入ってくる音と、皮ふ感覚だけだ。
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