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あたしの体は軽々と抱きあげられた。お姫様だっこ、というやつだ。
遠くで、ブロロロ、というひび割れたようなエンジン音が聞こえた。それはじきに近づいてきて、ブレーキ音がした。あたしたちのすぐそばに停車したようだ。エンジンはかかったままだ。なんとなくだけど、割と大きな車のような気がする。
スライドドアをあける、グワーッ、という音がした。
あたしを抱えた男が小走りに駆けて、車に乗り込むのが、揺れからわかった。
あたしの体は、硬い床に毛布を敷いただけの上に横たえられた。広さを感じたから、たぶんワンボックスカーの荷台なのだろう。特に乱暴な扱いでもないし、逆にやさしい扱いということもなかった。まるで荷物を運ぶみたいに、感情のこもらない扱いだった。
あたしのあとにもなにかが運ばれてくる気配があって、
(あ、タオもいっしょに乗せられるんだな)
と思った。
それからすぐにスライドドアの閉まる音がして、車が発進するのがわかった。
あたしたちが男たちに囲まれてからここまで、何分もかかっていなかっただろう。敵ながらおそろしく手際のよいやり口だった。
車は直進したり、曲がったり、止まったりして進んでいったけど、どこをどう走っているのかはわからなかった。ただなんとなく、郊外へと向かっている感じはした。
一度、まわり中に車の音がしたのは、市の東を走るバイパス線に乗ったのだろうし、そこから曲がって急に音がしなくなったのは、となりの市との境にある山のふもとへ向かっているんじゃないか、という気がした。
途中、男のひとりが、
「縛っとけ」
と、ぶっきらぼうに命令した。
あたしは両手を後ろで縛られ、両足首も縛られ、口にはさるぐつわをはめられた。
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