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 車が走り始めて三十分ぐらいたったろうか、男たちがこんな会話を交わした。 「そこを右だ」 「あの、エレセンスとかいう看板の?」 「そうだ」  しゃべっているうちのひとりは、運転手らしい。  会話の内容から、場所がわかった。市のはずれにある、エレセンスという倒産した工場だ。後ろが山で、まわりは田んぼだらけで、たとえ泣き叫んでも、だれにも聞こえないような場所だ。  やがて車は停車した。  あたしは再びお姫様だっこされ、車の外へ運びだされた。地下への階段を下りていく感じがした。下りきって、少し歩いたところで、また床に転がされた。今度は毛布もなく、コンクリートの床に直に転がされたようだった。  そうして一時間くらいたったころ――。  あたしは自分の体の表面にうろこが現われてくる変化を感じた。  そして、 (まずい)  と、思うと同時に、咲の肉体が意識を取り戻した、ということなのだった。
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