街灯が照らすもの

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街灯が照らすもの

夕子は最近、妙な噂を耳にした。 住んでる住宅地にある小さな公園に、深夜になると幽霊が出るという。 その幽霊は男性らしいのだが、何をするでもなく、ただベンチに座っている。 人を脅かすわけでもない。 ただポツンと座っているという話しだ。 この道は夜になると、パタッと人通りが途絶える。 何度か痴漢も出て、襲われそうになった女性もいる。 だから女性は遅くなると、決してここを通らないようにしている。 女性だけではない。男性も別の道を通る人が多い。 何故なら一時期、“オヤジ狩り”という事件が多発したからだ。 深夜、仕事帰りの男性が歩いているところに、高校生のグループが金目当てで男性を襲うというもの。 この事件以降、男女共にこの道を歩かなくなった。 「ただいま〜」 「お帰り。遅かったわね」 「先月、2人辞めたから、そのシワ寄せがどうしてもね」 「そう、会社も早く新しい人を雇ってくれるといいわね。夕子の帰りが遅いと、お母さんも心配で」 「心配かけてごめんね。今の会社の経営状態だと新人を入れるのは、ちょっと無理かな」 夕子が母親と話していると、大学3年の弟の優馬が、お風呂から上がってきた。  「姉さん、お帰り」 「ただいま優馬。バイトには行ってるの?」 「行ってるよ。家庭教師が一番稼げる」 「責任があるんだからね。合格させるという」 「大丈夫。今まで俺が見た子は全員受かってる。それより俺見たよ」 「見たって何を?」 「姉さんも知ってると思いけど、例の幽霊」 夕子は驚いて優馬を見た。 「優馬、あの道を通ったの?危ないから別の道で帰りなさいって云ってるのに」 「昨日はかなり遅くなっちゃてさ、早く帰りたかったからね。やっぱり一番の近道だしさ。 そしたら居たんだよ、幽霊が」 「冗談云ってるの?」 「本気に決まってるだろ。姉さんが疑い深いんだよ」
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