ひなどりはついばむ

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ひなどりはついばむ

大の男が重なりあって、睦みあっている。 水音が激しく部屋に響いて、大磯は目を塞がれ、手足を縛られ、口を塞がれて、普段排便する場所に雄を咥えていた。 体は汗で濡れて、意味の解らない音を漏らして呻いていた。 ぬめぬめとする体、のたうつ様は、みみずに似ていた。 (おとうさんみたいだと思っていたのに…!あんな気持ち悪いもの、お父さんじゃない、気持ち悪い、みみずみたいだ) 悲しくなって部屋を飛び出す所で雅哉は目が覚めた。 汗が大量に噴き出ている。自分の寝室、夜中の三時。 「くそ…なんで、」 舌打ちをして布団の中に手を入れる。下半身に触れると、性器に熱がこもっている。 軽く握ると、頭に夢で見た光景がフラッシュバックした。 普段見ている、すました顔の男だ。 「ふざけんじゃねえ、気持ち悪いだけだ。あんな、みみず」 知らなければよかった。 大磯を汚いミミズのままで憎むことができたらよかった。 なのにお節介の田中が、真実を告げてしまった。 (あんたの為に男に抱かれたんですよ。……あの人はな、殉教者だ。自分の為になにもしないで、あんた方親子と組の為に全てを捧げたんだぞ。それでもあんたは足りないのか?あの人にこれ以上何を望むんだ?命まで奪う気か?) (そんなこと、俺が知るかよ) (じゃあ、もう解放してやってくださいよ。せめて、真実を知ったのなら、あの人に優しくしてやってくださいよ) それから雅哉は毎晩のように大磯が男に犯されている夢を見る。 しかも尚悪いことに、たまに、雅哉自身が大磯を犯している夢すら見る事がある。 ぬらぬらと表皮をこすり合わせて蠢く二匹の、みみず。肉の色と粘液を擦り合わせながらまぐわう、みみずだ。 真実を知ってから雅哉は大磯を罵倒しなくなったかと言えば、それは違う。傍から見れば苛烈になったと思うかもしれない。 朝、大磯に学校へ送れと言う。 運転手がいるのにも関わらず、だ。そして、あの時の事を忘れたわけではない、と二人きりの車内でネチネチ言う。 この感情は自分でも解らない。ただ、止まらないのだ。女々しいと思う。大磯に罪はない。むしろ悪かったと言わなければならないと思うたびに余計に大磯を悪者に仕立てあげたいと思うのだ。 「俺は忘れてねえからな、このみみず。男に抱かれて気味が悪い。どんな気持ちだった?あんなものを見せられて俺がどんな気分になったと思う?ええ?笑ってごまかすな、お前なんか、お前なんか」 「すみません、坊ちゃん、すみません、すみません」 そうやって、大磯が前を向きながら謝る時だけ、何故かスッと気が晴れる。 これは単なる嫌がらせで、大人気ない、一体何年前の話をしているのか。 雅哉にだってそんな事は解っているのだ。 だが、やめられない。 そして決まって、夜に夢を見る。 自慰をする日が増えた。 頭の中で理由が浮かんでいるが、強い気持ちで答えを打ち消した。
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