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ある平日の朝、雅哉が起きてくると大磯がいなかった。
いつもなら朝食を食べている母親とお茶を飲んで雅哉が起きてくるのを待っているのに。
「おい、大磯は?」
「……母親におい、はないでしょうが。…大磯はもう来ないよ、あんたが酷い態度をとるからね。私がもう来ないように頼んだんだ」
「なんでだよ、勝手な事するんじゃねえよ」
「あのね、雅哉。あの人の何が気にくわないの?あの人は本当に私達に優しくしてくれてるじゃないか。お前だって父親みたいに思ってただろう?」
「うるせえな、クソババア。いいんだよ、あいつは俺にそうされて当然なんだから」
「雅哉!!」
母親が勢いよく立ち上がり、大きく頬を張られた。大磯のせいで殴られるのは二回目だと思った。母親が涙を浮かべて睨んでいる。
「あんた…自分が一人で生きてきたと思ってるの……?なんでこんな子に育ったのか…。今度大磯に会ったら謝りなさい。それで、これからはきちんと大磯を敬いなさい。それができなかったら、あんた、この家から出て行きな。もちろんこの家も継がせない。大磯に全部任せる」
「なんだと、ババア」
「お前なんかね、一人じゃなにもできない子供じゃないか!なにをそんなに偉そうにしているんだ!私は本気だからね。今のお前より大磯の方がよほど私には必要だよ」
「うるせえ、なんだよ、クソ、出て行ってやるよ。こんな家!」
そう言って雅哉は家を飛び出した。
行く所はなぜか決まっていた。そこにしか当てはなかったし、もう自分の気持ちも限界だった。
(この感情の名前を教えてくれ)
切実にそう思った。
それは決して愛ではない。
そんな高尚なものでは決してあってはいけないのだ。
【ひなどりはついばむ】
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