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角張ったエラのある顔立ちの馬場についている2つの目はいつも不機嫌そうな色を宿している。
…その輝きが今日は更に深いのはこのシーツのせいだけではない事は馬場だけが知っている。
使い古された眼球は男を見た。 年下の男、磯山と言う男 、目配りも気配りも良く出来る、野心家。
馬場はいわゆるヤクザ者だ。生まれた時から父も母もいなかった。
赤ん坊の頃はヤニ臭い祖父の股ぐらが揺りかごだった。
乳は粉臭い物を飲んだ。祖母が口で噛んで柔らかくなった唾液混じりの飯を食い、少年になれば川へ、湖へ 、エンヤーコラソイヤーコラ。
祖父は漁師だった
川魚や貝を取って生きていた。
雨の日は網を繕い、祖父と酒を飲んだ。
少年の馬場は祖父の安酒をレンジで温める事が仕事だった。
「龍太郎、雨降っとると骨が軋むな」
「俺は肌が痛い。背中がとくに痛い。痒くて痛い」
そう返すと飲んべえの祖父は黙って背中を掻いてくれた。
黙って黙って馬場の背中を優しさを持って触れた。
その祖父の卵焼きは絶品だった。
出し汁と片栗粉を混ぜた卵焼きは中がトロトロとしていて口当たりがとても良い。
ルーツを辿れば馬場の母親が生まれる前は馬場家はうどん屋であった。
跡取り息子の祖父はいっぱしの料理人になろうと老舗仕出し屋に修行に入ったが、あんまりの厳しさに「こりゃあ駄目だ」と1ヶ月で逃げ帰ってきたらしい。
今考えればとぼけた祖父だった。 手の甲から肘まで湯たんぽで火傷をした後があった。その部分は特に痛みを感じる箇所で祖父のそれは丁度入れ墨を焼き消した後に見える。
ヤクザ者からすればそれは我慢強い男や粋な男に見える証のようなものらしいが、寝ている間に出来たので本人は全く痛みを感じてはいなかったが、厄介事や筋者がちょっかいを出す度にシャツを捲って ちらり、ちらりとやるのだ。湯たんぽで出来た勲章を他人は見て、勘違いして「こいつは大したヤクザだったにちがいない」なんて言う。
それで大抵の事件は解決する。
「俺はいい印籠をもらったよ」
と、欠けた歯を見せて祖父は笑っていた。
祖母は気性の荒い女だった。
家から少し歩いた場所に畑があり、そこで大抵の物は作っていた。花や米や四季の野菜、毎日朝早くから彼女はヘルニアを抱えた腰を抱えて畑へ行く。
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