優しさを飲む

3/20
前へ
/61ページ
次へ
飯もきちんと作るが 、飲んべえだ。 酒を飲みながら昼ドラマを見ている祖母には触れてはいけない。 それが祖父と馬場少年の暗黙の鉄則であった。 無口で、しかしやる事はきっちりとできるいい女だったと思う。 ある時祖母のかき揚げがあんまり旨いので、どうして作るのだと聞いたら 「混ぜて、揚げる」 簡潔な答えが返ってきたのでそれからは難しい事は聞かないようにした。 人とは大きくかけ離れているかも知れないが、 少し風変わりな老人達との生活に少年は満足していた。 それがねじ曲がったのは 遠方に住んでいた馬場の母親の弟の家族が祖父母の家に転がり込んだ時からだったと思う。 奴等は正しく豚だった。豚は本当は綺麗好きな動物とは良く言った物だ。 奴等はまさしく豚だった。 家族だからと正当性を主張して老人の金を食う 。 自分の糞の始末を他人に任せて 、だのに 他人の糞は触ろうともしない。 馬場の好きな卵焼きは日増しに食卓に乗る機会が減り、体に悪そうな着色料がついた物や菓子パンばかりがちゃぶ台に並ぶ。 祖父母もやはり息子が可愛いのか、何も言わない 後で聞いた話、 自分達が死んだ後の墓守りを頼んでいたんだそうだ。 自分達を食い物にしていた人間に墓を守ってもらって何が嬉しいのだろうか。 馬場はその後の豚野郎共が祖父母に対して行った仕打ちを知らない。 施設に預けられたからだ 。 その内に祖母が死んだ 。 嫁とのいざこざがあったらしい。 嫁は自分の子供を腰が悪い祖母に任せて遊び呆けていた癖に「お義母さんの面倒を見ているんだから」と毎月の小遣いをむしりとっていた。 祖母は傲慢で恥知らずな嫁にほとほと疲れていたし、無理をした腰の痛みは何をするにも激痛を伴った。 (らしい) 本当の理由は良くわからない とにかく死んだ 。 川の土手に杭を打ち込みそれに縄をくくりつけ、片方は自分の首に巻いてぴょこんと川に飛び込んで死んだのだ。 馬場が知らせを聞いて駆けつけた時には祖母の体は焼かれ 、残された片割れの祖父の股ぐらに小さな骨壺があった。
/61ページ

最初のコメントを投稿しよう!

48人が本棚に入れています
本棚に追加