子どもの頃のトモ...ダチ...

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煌人(アキト)くんは、僕と再会した後の春に、同じ大学の院に入学していた。何でも、喫茶店で僕が読んでいた本の天に押されていた大学名を覚えていて、そこに通えばバレないよう、ひっそり僕を見ていられると考えたらしい。そして、案の定、大学内で僕を見つけ、時々後を着けていたそうだ。 「ストーカーだよね。」 「そう言うなよ。薫瑠のピンチを救えたんだから。」 物は言いようだ。事実は事実だから、反論はしないけど。 「でも、良かったよ。薫瑠は無事だったし、俺のことも思い出してくれて、今は晴れて恋人同士なんだからな。」 僕は、彼のことを思い出した。 僕の家族は上手くいってなかった。母親は欲しかった女の子ではない僕に失望していて、父親は彼好みの可愛い僕を許されざる目で見ていた。それだけではなかったけど。 そんな中、僕の癒しで、光だったのが煌人くんだ。読書の楽しさを教えてくれたのも彼だった。 ある日、僕は彼にぽつりと溢したのだ。『ずっといっしょにいたい』と。 本当は、『僕といっしょに遠くへにげて、ずっとそばにいてほしい』と言いたかった。だけど、それは無理なことで、彼を困らせることくらいは、子どもの僕にもわかっていた。 『じゃあさ、けっこんしよう。』 その時、彼は言ったのだ。 『けっこん?』 『あぁ、けっこんって、ずっといっしょにいるって神さまにちかうことなんだよ。まぁ、子どもはできないから、おとなになったら。』 『けっこんしたら、ずっといっしょにいてくれる?』 『あぁ、そういうやくそくだし、おれ、カオルのことすきだし。』 すき、の意味はわからなかった。だけど、彼がずっとそばにいてくれるなら、それでいいと思った。 『わかった。』 彼は、とても嬉しそうにふわりと笑った。 そうして、僕達は約束を交わした。 その日、丁度両親は離婚していた。そして、母親に連れられ、僕は施設に行った。父親が僕を引き取ろうとしていたみたいだけど、母親が全力で拒否したようだ。そのぐらいの情はあったのだろう。 そのまま僕は中学卒業まで施設で過ごして、高校は奨学金をもぎ取って寮のあるところにいった。そして、大学からは一人暮らしをしている。 そんな生活の中で、僕は懸命に忘れたのだ。家族だった人達のことも、もう会えない煌人くんのことも。 「それはどうかな。」 彼の顔が強張った。黒い瞳が、不安げに揺れる。窓から差し込む光の具合により、時々は綺麗な青色に見えた。 「俺達恋人じゃないのか?」 「恋人になってと言われた覚えはないよ。」 「......あー、だが、家を行き来したり、泊まったりもしてるし、好きとか、結婚しようとかも」 「家の行き来とか、泊まることは、友達でもするよね。同性なら尚更。その後の話も、あなたが勝手に言ってるだけだよ。」 「薫瑠、俺と恋人になってほしい。そして、ゆくゆくは結婚しよう。俺はそのために全力を尽くす。」 彼の瞳は、いつだって真っ直ぐだ。それは青色でも黒色でも関係ない。彼といれば、黒色さえも綺麗だと思えそうだ。 「...あなたの親を泣かすことになるね。」 「それはない。俺みたい奴に結婚は無理だと諦めているからな。将来の伴侶なんて連れてきたら、泣いて喜ぶぜ。」 そうだろうか。やっぱり親なら、周りから見てもわかりやすい幸せを得てほしいと思う気がする。僕にはわからないけど。 それでも、もう僕は思い出してしまったのだ。彼とならば、希望なんてないと思うことにも、もしかしたら、なんて思ってしまう。 「僕はあなたから離れたくない。あなたの両親にも認めて貰えるよう、全力を尽くすよ。」 彼の目が、大きく見開かれた。その瞳は青とも黒とも言えそうな色だった。とにかく、とても綺麗だと思った。 「ありがとう、薫瑠。」 ふわりと笑った顔は、僕の大好きなアキトくんの笑顔と、何も変わっていなかった。
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