8人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
黒い。暗い。何も見えない。
だけど、音は聞こえる。耳触りの悪い音だ。耳を塞ぐ。聞きたくない。聞いてしまったらきっと、それに飲み込まれてしまう。
『カオル』
不意に、名前を呼ぶ声が聞こえた。
顔をあげた。塞いでいた耳から手を離し、いつの間にかつぶっていた目も開けていた。
黒が、青に変わっていた。日の当たった深い海のように澄んだ色だ。
『カオル』
また、聞こえた。目の前の青色のように、澄んだ音だ。まるで、全てを包み込んでくれるような、すくってくれるような。
それに、手を、伸ばす...
目が覚めた。
夢を見ていた気がする。あまり覚えてないけど。おそらく時々見るのと同じようなもので、子どもの頃の夢だ。そんな悪い夢を見た後はいつも突然目覚める。これ以上嫌な思いをしないよう、自分で自分を守るように。
だけど、今日は少し違う。目覚めるのが惜しかった気がする。こんな気分になるのは、初めてことだ。
原因は、一つしかない。彼だ。今までと違うのは、彼と会ったことだけだ。
彼は、僕にとってどんな存在だったのだろう。
気になった。だけど、それを突き詰めるには、子どもの頃のことを思い出さなければならない。それは嫌だ。嫌な思いをするのは御免だ。
だったら、もういい。彼と会うことはこの先ないし、所詮、忘れてしまう程のものだ。
僕はそう言い聞かせ、勢いよくベッドから降りた。
時刻は午前七時過ぎ。二時間も眠れなかった。
最初のコメントを投稿しよう!