第1話 転校生来るってよ

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「失礼します。」 済賀君とさよならして向かったのは職員室。この時間帯ならあの先生来てるはずなんだけど、どこだろ? キョロキョロと見渡していると俺を呼ぶ声が聞こえた。 「猫屋こっちだ~。」 「先生...俺は猫屋じゃないです。設楽です。一文字もかすってないですよ。っていうか1年の頃から言ってますよね?いい加減覚えてください。」 俺を猫屋なんて苗字も名前も一文字もかすってない呼び名で呼んだのはヘラヘラと笑っている俺のクラスの担任だ。....その顔殴りたい。 「まぁいいじゃん。おっちゃんはいいと思うぜぇ?猫屋って呼び名。いっそ改名しちまうか?」 「あはははは、嫌ですよ。」 この担任の最初のイメージは''ヘラヘラと笑う軽薄そうな男''だった。適当に切られた黒髪から覗く瞳は菫色で綺麗だが常に浮かぶ笑顔と顎に生える無精髭が彼の印象を軽薄そうにみせた。 まぁそんな彼でもワイルドでかっこいいってチワワ男子から人気なのだが。 え、今はどう思ってるかだって? このおっさんこんなワイルドな見た目してメンタル弱いんだぜ? 俺にとってはガラスのハートを持つただのおっさんだな。 それにこのおっさんはよくネガティブになっている。 最初にそれを見たのは屋上で、何してるんだろう?って好奇心のままに座り込んでいる先生に近づいたのよ。そしたら聞いてもいないのにグチグチグチグチネガティブなことを言い出したんだ。あの時はびっくりしたね!びっくりしすぎて先生を突き飛ばして逃げてきちゃったよ。 いや、誰だって急に「俺はダメなやつんだ」とか言い出すやつ怖いでしょ?さっきまでなんにも言ってなかったのに俺が近づいたら喋るのよ?怖いよ。 今ではそういう場面を見たら気分によっては飴ちゃんあげたり、泥投げつけたりとかしてる。いつだったか、防犯用のカラーボール投げつけた時はめっちゃ追いかけられたけど。 この先生の内面知ってるからいくら見た目が良くてもねぇ....? かっこいい見た目も俺としてはその顎髭を剃って欲しいと思うくらいだし。顎髭似合うんだろうけど何故か見てると剃刀を片手に剃りたくなる衝動が湧き出る。 「おい、そんな目でおっちゃんの顎を見るなよ。...剃らないからな?」 「チッ」 思わず舌打ちをする。 ってそんなことはどうでも良くて.... 「なんで俺は呼ばれたんですか?先生に呼ばれたせいで朝早起きしなきゃいけなかったんですけど。」 「いや嘘だろ。おっちゃんはお前がいつもこの位の時間に登校してるの知ってるんだからな。早起きもクソもないだろ。」 「なんで俺がこの時間帯に登校してるって知ってるんですか?まさか....ストーカー?」 「おっちゃんはお前さんの事ならなんでも知ってるのよ。」 「俺としてはストーカーのところを否定して欲しかったんですけど。....もういいです。ツッコムのも疲れました。」 「突っ込む!?猫屋は突っ込まれる側だろう!?」 「設楽です。あと俺はそんな下品な話してません。で、用は?」 この人本当に教職者か? 普通に生徒にセクハラしてくるんですけど。教育委員会に電話した方がいいですかね? 「あぁ用ね。今日転校生くるじゃん?その世話をお前に任せようと思って。」 「いいですよ。」 「まぁそう言わずに....は?」 「いいですよ。俺転校生の世話します。」 先生は目を見開きポカンと口を開けている。その姿はなんだか間抜けで面白かった。俺の笑顔が標準装備じゃなかったら大爆笑してたな。 ぶっちゃけ今も口端が更に吊り上がりそうだし。 っていうかその驚き様はおかしくない? 転校生の事頼むために俺を呼んだのにOKしたら驚くってどういうことよ...。 「なんでそんな顔するんですか?」 「いやだってよォ....お前が了承するなんて思わなくてな。絶対嫌だって言うと思ってたんだが、なんでだ?」 「うーん...強いていえば気分ですかね。まず俺が断ること前提ならなんで呼んだんですか?他にもあてはあるでしょうに。」 「気分か....これはしくったか?」 「?なにをしくったんですか?」 「いんや....ただお前の嫌がる姿を見れなくておっちゃんは悲しいと思ってな。」 「趣味悪いですね。はぁ.....用はそれだけっぽいしもう行きますね。」 「おいおいまだ早いだろ。もう少し話してけよ。」 「やですよ。それにほら、先生と話したそうにしてる人が待ってますしね。」 職員室入口で俺を視線で射殺すつもりなのでは?と思うほど強い感情でこっちを見ているチワワ男子が居た。 どうやら彼は先生狙いらしい。 「あぁ?....あいつ誰だっけ?」 マジかこの人!? 自分のクラスの生徒忘れるか普通? 「はぁ俺はこれで....」 チワワ男子と入れ替わるように俺は職員室を出た。先生の引き止める声なんて全く聞こえない...聞こえないったら聞こえないんだ。
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