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「ちょっと~!! 可愛い女の子に酷い仕打ちじゃないのよ!!」
私の身体は縄でグルグルに巻き付けられ、男に引っ張られながら歩いていた。
人里に着き、村人の視線が刺さる。まるで罪人かのようだ。
この可愛い制服とキレイなキラキラの金髪が悪いのかしらね!
内心強がってみるも、これからのことを考えると怖い。長くリャンから離れていたけれど、この国の人間は日本と違って身分の低い者や罪人などには人権が与えられていない。
幼い頃、過ごしていたリャンとちっとも変っていない。幼い私は一人部屋に監禁されて食事を与えられるだけの生活をしていた。外から子供の声が聞こえると羨ましかった。外に出ようとすると折檻されて食事抜きにされた。
あからさまな侮蔑する視線にチッと舌打ちすると、男の眉間にシワが寄り、さらに力強く引っ張られる。
「……いったいわねっ!」
私という人間ではなくて生贄。神様に捧げる餌。
…………今、思い浮かべても、こいつ達のしてきたことは虐待だ。
日本に転移出来て施設で温かく暮らせてようやく私は人間として扱われた。それに私を姉と慕ってくれる兄弟達が沢山出来た。
あの生活には戻る事が出来ないのだろうか。
「もう、痛いっ! 痛いってばぁ~! 引っ張らないで! 人の話、ちゃんと聞きなさいよぉ!!」
「煩い。黙れ。口まで塞がれたいか」
「……っ!」
男に睨まれ、その場は黙るが、またしばらくしては文句を言う。
「文句言っても言わなくてもどうせ神に捧げるんでしょ! なら、愚痴くらい聞くのが情けじゃないの!?」
「10年の間に随分と減らず口を叩くようになったな。ただの餌のくせに」
ただの餌……。やっぱり、本音がそれか。日本なら即通報してやるのに!
それを聞いて、尚更逃げなくちゃと考えていると崖下にある大きな屋敷に到着した。藁葺き屋根が特徴的な屋敷で、こかの辺りで一番敷面積がある。
「……ここは、昔、住んでいた……」
見覚えのある屋敷に目を丸くしていると、男に玄関先の地面に私を座らせた。頭を掴まれ地面に押し付けられる。
「頭を下げろ。馬鹿者」
「だぁれが、馬鹿者よ! あんたたちの方が馬鹿じゃないのよ!」
屋敷からこちらに向かって歩いてくる音がした。私の少し前に影が止まる。
「……贄か。汚れを落とし、その髪の毛の色を黒に染めろ」
「……」
まるで感情のない声。その声はしゃがれていて老人の男のものだ。私は上目だけでその声の主を見た。白髪のシワだらけで目が吊り上がった老人だった。きっと、幼い頃会うことすら許されない身分の人間だろう。
しかし、性格悪そう。
一度見たら忘れない顔をしている、この男とは確実に初対面だ。
「黒髪にはしないわよ! こっちは美容院でキレイに染めてんのに!」
先日、美容院へ行ったばかりなのに、黒髪にされるなんて冗談じゃない。さらに生贄なんかやるもんかと文句を言うと、「会話を許可した覚えはない」と老人が言う。
横の男にさらに強い力で地面に押さえつけられる。
「……っ」
「顔はよさんか。神への贄じゃぞ」
「はい」
老人の一声で、男は私の頭から手を離した。圧力がなくなったが頬が痛む。
「あの神はもう駄目かもしれない。贄を与えるのがあまりに遅すぎた」
「……は。では、この生贄は」
「いや、贄は捧げる。今の神がお亡くなりになられたら、次の神力を持ったお子がいつ生まれるか分からない」
なんの話だろうか。
神が死ぬ? 新力を持ったお子?
話が分からないままだったが、老人は立ち去った後、屋敷に連れていかれ、即座に水浴びを言い渡された。
縄を外され、逃げようと思ったら、ザっと三人の女中が私を囲んだ。
睨みつけると、女中の冷たい目線が飛んできた。
「……なんで、そんな目で見るのよ」
「貴方様は生贄」
「はぁ? それが答えになってんの!?」
女だけなら逃げられるかもしれない。会話して気を反らした時に、走って……。
「無駄な抵抗はよしなさい。外には警備の男が待機しております」
「……っ!」
動きを予測された私は、八つ当たりに女中に馬鹿だの不細工だの言いまくったが、もう女中は返事をしなかった。
奥歯を噛みしめて、言われた通り入水すると、もう一人の女中に頭を黒く染められた。抵抗すると、ぎりぃっと太股をつねられ、三人で押さえつけられ身体を磨かれる。
身体は確かにキレイになっただろう。でも、それ以上に気力が奪われた。
…………くそぉ、コイツらにとって、私は家畜を食事に売りに出すような感覚なのね!
抵抗するだけ体力の無駄だと脱力していると、髪を強引に梳かれ、顔には白粉を塗られる。
さらに白いチャイナドレスのような横スリットの入った服を着せられた。
「ねぇ! 制服はどうしたのよ!」
「貴方には関係ありません」
「はぁ!? 返しなさいよ!!」
その女中に掴みかかると、警備の男に捕らえられた。野蛮な贄だと言われ、腕と身体を縄で拘束される。屋敷ではなく外に連れて行かれる。どこに連れて行くつもりなんだろう。
「離してよっ!! 離せ!!」
抵抗すると強引に縄を引っ張られ、地面に倒れた私をズルズルと引きずる。
何よ!! この、扱い!?
崖下にある洞窟内に牢屋のような囲いがあり、そこに投げるように放り込まれた。洞窟の硬い地面に身体を打ち付ける。
「ーーーーあっ、いたぁいっ!!」
こんなに乱暴に扱われた事なんて初めてだった。痛みに顔をしかめていると、ガチャンと囲いの鍵を閉められた。
「……は? う、嘘でしょ……? 縄を外してよ!?」
腕と身体を縄で繋がれたままだ。大声で離せと叫んでみるものの「獣みたいな女だな」と一蹴され去られてしまう。
視界に誰の姿も映らなくなってしまう。
「……痛いじゃないのさ」
無駄だとようやく分かり、叫ぶのを止めた。身体をねじり洞窟内を見渡す。まだ夕方だというのに、洞窟内はもう暗くて奥まで見渡すことが出来ない。
ブルリ。
夏季だけど、洞窟内はひんやりと冷えて凍えてしまいそうだ。
何よ……、ここ。夢だって言ってよ。異世界転移は嘘だって。
目が覚めたら日本で、それから可愛い兄弟達を可愛がって学校行って、バイトしてお洒落して、友達と遊んで……。
もう戻ってこないと思っていたのに。
「……お腹減った……」
腹ごなしの食事も与えられなかった。
喉だって乾いた。
お腹の減りに急に悲しくなってきた。涙が溢れてきてしまう。
「天元くん、助けて……」
子供の頃、助けてくれた男の子の名を呼んだ。幼い頃の私の絶対的な存在……。
助けてもらってから弱音なんてずっと吐かなかったのに。
「く、そぉ。絶対に出てやるんだから……!!」
溢れてくる涙を止める事が出来ずに眠った。
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