怨霊に憑りつかれた

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(お前は誰だ?)  その男は慎哉に向かって、やや甲高い声で質問した。  男の逆らえない雰囲気に押され、答えようとするのだが、なかなか声にならない。  口をパクパクするだけの慎哉に対し、そういう態度に慣れているのか、男はニヤリと笑って再び指示した。 (落ち着け。手討ちにはせぬ)  男の思いのほか優しい声音に、少しだけ落ち着きを取り戻した慎哉は、大きく息を吸って吐き出した。 「僕の、名前は、佐伯、俊哉、です。東京、明峰大、の、法学部、の、一年生、です」  慎哉はつっかえながら、ようやく自己紹介を終えた。  男の名前が訊きたいのだが、怒られるのが怖くて勇気が出なかった。 (フーム)  男は唸ったきりで、それ以上訊いてこない。  再び、部屋の中を見回し始めた。  今度は先ほどよりやや入念だ。 (違うようだな) 「ハ?」  男の言葉は短すぎて、何が違うのかよく分からない。  多少この状況に慣れて来たので、恐る恐る訊いてみた。 「あの、あなたはどなたですか?」  何か考えていた男は、慎哉の方に向きなおって、徐に口を開いた。 (余は本能寺で無念の最期を遂げた織田信長の怨霊だ)  怨霊!  慎哉は危うく気絶しそうになるのを、必死で踏みとどまった。  なぜ、僕の前に怨霊が現れる?  なぜ、織田信長が今になって現れる?  なぜ京都じゃなく、東京に現れる?  僕はこれからどうなる?  疑問符が大量に頭に浮かぶ。
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