16人が本棚に入れています
本棚に追加
(お前は誰だ?)
その男は慎哉に向かって、やや甲高い声で質問した。
男の逆らえない雰囲気に押され、答えようとするのだが、なかなか声にならない。
口をパクパクするだけの慎哉に対し、そういう態度に慣れているのか、男はニヤリと笑って再び指示した。
(落ち着け。手討ちにはせぬ)
男の思いのほか優しい声音に、少しだけ落ち着きを取り戻した慎哉は、大きく息を吸って吐き出した。
「僕の、名前は、佐伯、俊哉、です。東京、明峰大、の、法学部、の、一年生、です」
慎哉はつっかえながら、ようやく自己紹介を終えた。
男の名前が訊きたいのだが、怒られるのが怖くて勇気が出なかった。
(フーム)
男は唸ったきりで、それ以上訊いてこない。
再び、部屋の中を見回し始めた。
今度は先ほどよりやや入念だ。
(違うようだな)
「ハ?」
男の言葉は短すぎて、何が違うのかよく分からない。
多少この状況に慣れて来たので、恐る恐る訊いてみた。
「あの、あなたはどなたですか?」
何か考えていた男は、慎哉の方に向きなおって、徐に口を開いた。
(余は本能寺で無念の最期を遂げた織田信長の怨霊だ)
怨霊!
慎哉は危うく気絶しそうになるのを、必死で踏みとどまった。
なぜ、僕の前に怨霊が現れる?
なぜ、織田信長が今になって現れる?
なぜ京都じゃなく、東京に現れる?
僕はこれからどうなる?
疑問符が大量に頭に浮かぶ。
最初のコメントを投稿しよう!