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ーPrologueー 1 月の裏側
分かっては、いた。
自分がこの月の裏側に送られたのは、転属という名の、自分に与えられた「罰」なのであると。
……だが、いざ、実際にその扉の前に立ってみると息が乱れる。足がすくんで、動かなくなる。
逃げ出してしまいたい。脳内に反響する己の声に、ジーンは思わず周囲を見回す。だが、彼の視界に映るのは、無機質な真っ白な廊下と、案内役と称して、ここまで宇宙港からずっと連れ立ってきた屈強な軍人ふたりのみだ。ジーンはせめて心臓の動悸を整えようと、大きく息を吐いた。
「どうした、ジーン・カナハラ。君の赴任地はもうその扉の向こうだ。行くぞ」
軍人のひとりがジーンのその様子を見て、冷たく笑いながら、言葉を放ってくる。もうひとりの軍人は扉に作り付けられたインターホンに、ジーンの到着を告げている。
瞬間、ジーンは思った。この場で舌を噛んで死んでやろうかと。
だが、そのとき、ジーンの腕をぎゅっと握った小さな掌の感触に、彼の意識は現実に揺り戻された。
「おとーさん、どうしたの? 新しいおしごとのばしょに、早くいこうよ」
ジーンは、はっ、として、その言葉を発した傍らの幼い娘に目を向けた。娘のアイリーンは、あどけない顔に満面の笑みを浮かべてジーンを見上げている。
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