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……そうだ、俺にはこの子がいる。だから、俺は、まだ死ぬわけには、いかないんだ。
ジーンは正気を保つかのようにちいさく頭を振り、そして、アイリーンの掌を力強く握り返した。
「……ああ、アイリーン、じゃあ、行こうか」
「わーい!」
そのアイリーンの言葉に押されるかのように、ジーンは大きく扉の前へと踏み出す。途端にピピ・ピと微かな電子音が鳴り響き、扉の上のランプが緑に点滅した。虹彩認識の完了の合図だ。
次の瞬間、扉は勢いよく開け放たれた。
「ようこそ、ユーラシア革命軍月面難民収容所へ」
ジーンとアイリーンの正面で、そう綴られたオレンジ色の文字、それと精悍な男の横顔を描いた大きな肖像画が、壁に掛けられたスクリーン上に浮かび上がり、歓迎の意を告げた。
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