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【09】悪夢――??
夢を見た。
いつも見る夢だ。
暗闇に、背の高い人影が浮かんでいる。
周りには何もない。空も大地もない。漆黒の闇に、その人影は浮かんでいる。
ゆらゆらと、輪郭がボヤける。鈍く発光している。緩慢な動きを、人影は繰り返す。
腕を上げる。前に出る。しゃがむ。
立ち上がる。振り向く。歩き出す。
周りを見る。
何もない。
周りを見る。
誰も居ない。
周りを見る。
一人の少女が眠っている。
人影は、踊り始める。さっきまでとは別人のような俊敏さで。歓喜に震え、踊り続ける。
ボヤけた輪郭が、ひとつに定まる。
男、それは大人の男だ。
けれど、顔だけは真っ黒で、どんな人物なのかはわからない。
顔だけが黒いその男は、暗闇の中、鈍く澱んだ光を撒き散らす。
踊る。
男が、踊る。
踊る。
ひとり、踊る。
踊る。
激しく、気ままに、身勝手に。
踊る。踊る。踊り続ける。
そうして、男の太い腕が眠る少女に伸びた時。
少女が、目を開けた。
その瞬間、弾ける光。
少女は、猟銃をその人物に向けていた。
男が襲いかかろうとした時、幼い少女は引き金を引いた。
黒塗りの男が、ばたり、と倒れた。
雷のような、閃光と轟音。
ゆっくりと、男が倒れる。暗闇に溶ける。
輪郭は再び曖昧にボヤけ、鈍い光が消えていく。横たわる影から、ジワリと漏れ出す液体。
赤黒く澱んだ池の淵で、少女が立ち上がる。
その身体には不釣合いな、大きすぎる猟銃を抱えて、よろめきながら、立ちすくむ。
猟銃からは、硝煙。
左の瞳からは、涙。
少女は、動かない人影を見下ろす。
見開かれた瞳は、虚無。
柔らかな肌に、朱い標。
どこからか飛んできた赤い風船が、少女の頭上で割れた。
突然降り注ぐ、赤い雨。
世界が、赤く染まる。
長い髪も、白いワンピースも、動かない影も、不気味な銃も。
全てが、赤に染まっていく。
赤い雨の中に、少女は立っている。
ただ、黙って立っている。
赤に塗れた身体もそのままに、いつまでも立っている。
立ち竦んでいる。
今も、そこに。
-第二章に続く-
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