序章

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序章

わたしがせんせいにわたす絵は、いつもかおをまっくろにぬりつぶされた男の絵。その絵をみてせんせいはたずねます。 これはだあれ? 『パパ!』 私ははっきりと、そう答えたのです。 そう、はっきりと。なんの躊躇いもなく。 それがおかしいことだって、思ったこともなかったのです。 私は自分の父の顔を、全く覚えていません。 写真を見せられてもわかりません。 『この人だよ』と、黒いスーツの立派な男性の姿を指さされても、それが見たことのある顔なのか、そうじゃないのか、わかりません。だから『ふぅん』と曖昧に答えるしか無かったのです。 それが私。10歳の私。 そして今も、それは変わらないのでした。
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