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【06】真実――現在
どれくらい時間が経っただろう。
すぐそばで倒れたままの優也に気づいた。
あたしの様子を見に来てくれただろう優也。
それなのに、幻覚に惑わされて突き飛ばしてしまったあたし。
でもね、それで思い出せたんだよ。
あの夜のこと、すべて。
あたしは、優也の頭の傷を探した。
お父さんの時のように、ぱっくり割れていたらどうしよう、と思ったけれど、時計は軽かったらしく、傷なんてどこにもなかった。
脳震盪を起こしたのかな……?
あたしは、優也に毛布をかけ、目が覚めるのをまった。
このまま起きなかったらどうしよう……。
そう不安になりはじめたとき、優也の目が開いて、あたしは、ほう、と安堵のため息を吐いた。
「優也、大丈夫? 心配して様子見に来てくれたのに、突き飛ばしたりして、ごめんね」
優也はまだぼうっとしていたけど、それでもあたしへの配慮は忘れない。
「繭は? 大丈夫か?」
「うん。雷も風も雨も、だいぶおさまってきたから大丈夫」
「そうか。それならよかった」
優也は、あたしが思い出した事実を知らない。
あたしが『知っている』ことを、まだ知らないと思っている。
「優也、頭痛くない?」
「ん? 特に痛くはないけど……」
優也は自分で確かめるように、頭を触って見せた。
「俺、どうかしてたのか?」
「突き飛ばされて、そのあと上から、コレが落ちてきて直撃」
「うわ、痛そうだな」
あたしが掲げた置時計を見て、驚いた顔をする優也。
その後すぐににっこりと笑って。
「でも、大丈夫だ。どこも痛くない。本当に直撃したのか?」
「したよ。優也ってば、石頭だね」
そうしてふたりで笑い合った。
「繭、調子戻ったんなら、食事しないか。食べておいたほうがいいぞ」
「そうだね」
あたしは優也に言われるまま、階下に降りる。
キッチンには、あたしの食べ残したシチューがそのまま置いてあった。
「待ってろ。すぐ温めるから」
「ありがと」
優也がシチューをチンしてくれている間、あたしは室内を見渡していた。
暖炉がある。
その上には、二挺の猟銃が飾られている。
後頭部の殴打痕。
ああ、間違いない。
あれが、お父さんの命を奪ったんだ。
「おまたせ、繭。熱くしすぎたかもしれないから、気をつけろよ」
「ありがとう」
あたしは温かいシチューをおなかに納める。
「よかった。食べられたな。片づけは俺がやるから、もう休めよ」
気遣ってくれる優也に、ハッキリと問うた。
「それより、聞きたいことがあるんだ、優也に」
「聞きたいこと?」
「お父さんの死体、あの後どうしたの?」
「……なんだって?」
眉を顰めて、優也は驚いたような声を出した。
「だからね、七年前、あたしが殺したお父さんの死体。ここにはなかったでしょ? 猟銃が落ちてきて、お父さんが死んだあと、死体をどうしたのかな、と思って」
「繭……お前」
「思い出したの、全部。あたしがお父さんを突き飛ばして、壁にかかっていた猟銃が落ちてきて、お父さんの後頭部を殴打した。それでお父さんが動かなくなって、優也が飛び出してきたこと」
「…………」
「あたしが殺人犯にならないように、優也は死体を運んだ。そうでしょう?」
優也は一瞬黙り込んで、こう言った。
「今更真実を掘り起こしても、何も変わらないぞ。繭が真実を知ったところで、何も」
変わることがあることを、この優しい人は考えもしないのか。
あたしは淡々と「それでも聞きたいの」そう返した。
するとまた黙った優也は、遠くを見るような瞳をして、思い返すように語り出した。
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