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【08】逆転――現在
優也の告白に、返す言葉がみつからなかった。
話を聞いている間中、十歳の幼い優也が、あたしのためにと手を尽くしていてくれたことが、切なくて、愛おしかった。
聡い優也なら分かっていただろう。
それで、自分が犯罪者の息子という負の烙印を押される意味を。
なのに、優也は自ら茨道を選んだのだ。
あたしを、殺人犯にしない為に。
本当に犯罪者の子供なのはあたし。
殺人犯なのも、あたし。
優也は加害者でもなんでもない。
被害者の息子だったのだ。
なのに今までずっと、逆の立場で、あたしは甘やかされて、優也は貶められて生きてきた。
「ごめん……ごめんなさい。ごめんね、優也」
あたしには泣きながら謝るしかできなかった。
「気にするな。俺がやりたくてやったことなんだから。それに、今更真実がわかっても何も変わらないって、言ったろ? 俺はこれでいいんだ。だから、繭も納得してくれよ。あの夜の俺を、褒めてくれよ」
泣きそうな表情で、優也が言う。
あたしは涙をぐっとこらえて、「うん」と頷いた。
それからそっと優也に近づき、その髪に触れ……優しく抱きしめた。
「ありがとう。……ありがとう、優也」
泣いちゃだめだ。
あたしには、泣く権利なんてない。
甘く優しい繭の中で、うとうとと、夢見心地に生きてきてしまった。
そう、優也の作ってくれた、居心地のいい、優しい繭の中で。
あたしには、責任を取る義務がある。
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