三.簪の乙女

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◇◆◇  鷹人が育った屋敷は、五年前に比べ使用人も随分増えて賑やかになっていた。  それを見て鷹人は、養父の罪が許されて復位したことを改めて実感し、背負っていた何かが一つふわりと降ろされたような心地がした。  ただ、当の田麻呂は(今の大分市の辺)(いん)(げの)(じょう)(定員外の官職)に任じられ、この屋敷は、鷹人の義理の兄である田麻呂の実子、種麻呂が田麻呂の代わりとなり切り盛りしていた。    種麻呂も八幡神を貶めた罪人の子として、幼い頃は鷹人同様に辛酸を舐めていた。  だが、この二人の仲は互いに避けあう間柄だった。特に鷹人が杜女の子であると知れてからは、鷹人がというねじ曲がった醜聞が、追い討ちをかけるように、彼らに冷たい軋轢を生んでいたのである。  実の所、種麻呂に会う事に対して、かなり気持ちが重かった鷹人だったが、種麻呂は少しぎこちなくも、鷹人を温かく歓迎した。恐らく養父から何か執り成しがなされたのだろう。同様に昔からいた使用人も若干の気まずい顔を見せてはいたが、以前のように腫れ物に触れるような態度を取ることはなかった。  その日の夕餉では養父田麻呂の近況が鷹人に伝えられた。  種麻呂曰く、「員外国司」そのものの赴任が朝廷から禁止されている状況下、養父は国庁に出仕することができないのを良いことに、豊後国を拠点にあちこち神出鬼没で出歩いているとの事だった。  どうせ、また何かの根回しをして回っているのだろう、と種麻呂は笑い、鷹人も違いないと一緒に笑いあう事ができた。
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