伝承

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伝承

 伝承が、ある。  後漢桓帝(かんてい)延熹(えんき)年間。河東郡(かとうぐん)解県(かいけん)の小さな寺に、囲碁好きの和尚がいた。  この和尚の元に、美しい髭をたくわえた偉丈夫が、ある日訪ねて来た。彼も碁を好むと言う。喜んだ和尚は、その男を歓迎し、早速二人で碁を打ち始めた。  両者の実力は伯仲し、なかなか決着がつかない。朝から夕方まで碁を囲み、翌日、翌々日と勝負を持ち越しても対戦は続いた。結局、彼らの対局が終わったのは、一か月後だった。勝者は、美髭の男である。最後はあっ気ない幕引きで、和尚は些細(ささい)な不注意で負けた。 「……どうされた、和尚。今日は調子が悪かったのかな」  男は豊かな髭を撫で、和尚に眼差しを向けた。よく見ると、その顔はずいぶんとやつれていている。
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