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<関帝廟のおみくじ>
関羽が少女をかばい、盗み食いの罪を被ったという逸話は存在しない。ただし、作者が元ネタにした説話が清の時代の怪異小説『子不語』(袁枚著)にある。
* * *
科挙に挑戦しているある男が、李という家に間借りしていた。隣の家の王という者はいわゆるDV夫で、いつも妻を殴っていて、食事も与えていなかった。飢えた王の妻は李家の鳥の煮込み料理を盗み食いした。
そのことが李家に露見し、激怒した夫の王は妻を殺そうとした。
王の妻は恐れおののき、「料理を盗んだのは、私ではなく、李家に間借りしているあの男です」と訴えた。驚いた男は濡れ衣であると言ったが、関帝廟(神となった関羽が祀られている廟)のおみくじで占うことになった。
おみくじを三回引くと、「犯人は李家に間借りしている男」と三回とも同じ結果が出た。占いのせいで、男は李家から追い出されてしまった。
後日、霊媒師が関帝(関羽)の霊を自らの肉体にのりうつらせていたので、男は「なぜ間違った裁きを下したのです。おかげで私は間借りしていた家を追い出されました」と関帝に文句を言った。霊媒師に憑いている関帝は、灰の上に文字を書き、男をこう諭した。
「お前が盗みの罪を被ったところで、せいぜい李家から追い出されるだけだ。しかし、王の妻は盗みが露見してしまえば、必ずやあの乱暴な夫に殺されてしまう。私(関羽)は、裁きを間違えたという汚名をあえて受けてでも、人命を助けたかった。科挙に合格して民の支配者たらんとするお前は、どうなのだ。それでも私の裁きを恨むというのか」
男は、関帝の裁きにようやく納得することができたという。
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義の人・関羽は、死した後も義の神だった……と感じられる面白い逸話である。そのため、小説内で形を変えてこのエピソードを入れた。
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