ほたるのゆめ

1/16
990人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
学生の時、たまたま隣に座った人に恋をして秒で失恋したことがある。 恋に関しては一目惚れ。 僕は恋愛体質なのか、すぐに恋をしてしまう。 顔がいい。 声がいい。 指が綺麗。 ほめてくれた。 告白してくれた。 ちょっとでも、気に入ったところがあったり、気に入ってもらったりすると途端に好きにってしまう。 恋に落ちるのは一瞬だ。 『好き』だと思った瞬間、心がその人に染まり、世界がキラキラ輝き出す。 すると僕の身体はドキドキして、発情期でもないのにその人と繋がりたくなるのだ。 なんでだろう? それはアルファだけでは無い。ベータの人でもそう思ってしまうのだ。 好きになったらエッチしたい。 僕はその思いに支配されてしまう。 だから大抵、僕は恋に落ちるとそのままホテルへ行ってしまうのだ。そして本能が欲するまま、その人をこの身に受け入れ、思う様抱かれる。 僕はそういうことに抵抗がない。 だってそれは動物の本能でしょ? より優秀な遺伝子を残すために、本能がそれを望み、種を欲する。 人間だって動物だもの。みんな自分の知らなところではそう思っているに違いない。 だけど、人間だけがそれを楽しむことが出来るから、なんだかそれが神聖なものからいやらしいものへと変わってしまったんだと思う。 だって、その行為は全然美しくないもの。 そもそもなんで、身体の中で一番汚い部分を繋げるんだろう。しかも、繋がった姿は全然キレイじゃない。滑稽とすら思う。 でもだからこそ、そうまでして繋がり、子種をもらって命をかけて育み生もうと思える人と、一生を共にするのかもしれない。 だから僕は、すぐに確かめたくなるのだと思う。 この人の子を、命をかけて生みたいかと。 好き=欲情。 好きになるから欲情するのか、欲情するから好きなのか。 分からないけど世界が光ったら、僕の身体も熱くなる。そして、そのままその人の欲望を受け入れるのだ。だけど、あんなに輝いていた光は何故かいつも消えてしまう。 どんなに身体が熱くなり、切ないくらい相手を欲しても、その猛りをこの身に受け入れた瞬間、光は消え、色褪せていく。そしてその光は二度と、輝くことは無い。 どんなにエッチが上手くても、どんなに身体の相性が良くても、どんなに気持ちが良くても、光が失われると途端に心が冷めてしまう。 それでももしかしたら、とお付き合いをしたこともあるけれど、やっぱり失われた光が戻ることはなかった。 そんな付き合い方をしていても、不思議とトラブルになったことは無い。 僕自身人付き合いが得意であることもそうだけど、なぜか僕の恋のセンサーは恋愛している人には働かない。すでに誰かと付き合っている人はおろか、片思いをしている人にも反応しない。だからいつも安心して自分の直感を信じて行動してきた。 なのに・・・。 たまたま座った講義室の席の、たまたま隣合った人。でもその人を見た瞬間、僕の世界が光ってしまったのだ。一瞬で心がその人でいっぱいになり、キラキラ輝いた世界の中で、その人だけが浮き上がって見えた。 恋に落ちた。 だから僕はいつものように声をかけたんだ。 胸がドキドキして身体が熱い。 この後の予定を訊いてなるべく早く肌を重ねたい。 なのに、振り返った彼のさらに奥に、かわいい女の子が見えた。 あれ? 二人は手をつないで、突然声をかけた僕を不思議そうに見ている。 どう見ても付き合っている二人。 僕は秒で失恋した。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!