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第7話 寛解への道(4) ~ヨガ~
翌朝。
よく眠れたせいで久しぶりに寝覚めが爽やかだった。
いつもは侍女のワンダに起こされるのだが、今日は自分で起きることができた。
そこでラパンツィスキ様のメモに書いてあることを思い出した。
そういえば、こうやって体の生活リズムを整えて、朝型にして行くんだっか…
まずは、朝日を目に入れて、体をリセットするんだよね。
私は早速部屋のカーテンを開けた。
幸い、私の部屋は東側にあるので、部屋に早朝の柔らかな朝日が差し込んでくる。
まだ、春だし、朝の強すぎない陽の光が心地よい。
私は気持ちが良くなって、手を上に挙げ軽く伸びをした。
そこにワンダがやってきた。
「まあ。姫殿下。今日は自分で起きられたのですね」
「ええ。昨日は久しぶりによい睡眠がとれたので…目覚めも爽やかだったわ」
「それはようございましたね。ラパンツィスキ様とのお約束の時間までまだ少しありますので、目覚ましにハーブティーをお入れしましょう」
「ありがとう。お願いするわ」
ワンダは早速ハーブティーを入れてくれた。
飲んでみるとレモンの香りが強くより爽やかな飲み心地だった。
昨日、私がレモングラスを好きと言ったことを覚えていてくれたのだろう。
「今日はレモングラスを多めにしてみたのですが、いかがですか?」
「ありがとう。とっても爽やかで美味しいわ。目覚ましには打って付けかも」
しばらくワンダと談笑した後、時間が迫ってきたので、ヨガ用の服装に着替えることにする。
トップスは、薄紫色のゆったりとした七分袖のヨガシャツ。
ボトムスは、お揃いの薄紫色の10分丈のゆったりとしたヨガパンツだ。
この世界では、女性は男性と同じものを着ないという習慣があり、パンツをはくことには少し抵抗があったのだが、足のラインがはっきりとは見えない10分丈のパンツで良かった。
ラパンツィスキ様が用意してくれたものだが、心遣いが感じられた。
これがこの世界の男の人が履くようなピチピチのタイツとかレギンスだったりしたら、足のラインがもろに見えてとても恥ずかしかったと思う。
そろそろかという頃合いにラパンツィスキ様がやってきた。
だが、彼の顔を見た瞬間、昨夜のことがフラッシュバックして、恥ずかしさから私の顔はカーッと熱くなり、背中の神経がぞくぞくした。
これが表情に現れないように必死に耐える。
「おはようございます。姫殿下。昨日はよく眠れましたか?」
「おかげさまで、久しぶりに熟睡できた感じよ」
なんとか平静にそう答えながらも、一方で私の目はラパンツィスキ様の服装に釘付けになっていた。
上下とも私と全く同じ薄紫色のヨガウェアだった。これではまるで恋人のペアルックみたいではないか。
私は少し気恥ずかしくなって、また顔が少し赤らんでしまった。
だが、ラパンツィスキ様は全く気にしていない様子だ。
ラパンツィスキ様が部屋の床にヨガマットを2枚敷くと、準備完了だ。
「姫殿下。靴下は脱いで裸足になってください」
「あっ。はい…」
素足も普段は人前でさらさないところだけに、恥ずかしいな。
なんだか私、昨日から恥ずかしがってばかりだ…
「では、始めましょう。まずは、ヨガマットの上にあおむけになって手足を脱力してください」
私は言われたとおりヨガマットの上に横になった。
「そうです。これは亡骸のポーズといって、最も基本のポーズとなります。ヨガは亡骸のポーズに始まり亡骸のポーズで終わりますので、覚えておいてください」
「はい」
「では、目の上に布を被せますね。目を軽く閉じてリラックスしてください」
ラパンツィスキ様が布をかぶせてくれたので、私は目を閉じた。
「まずは呼吸を整えますね。まずは、吐く呼吸を吸う呼吸の倍くらいの長さで呼吸します。呼吸が落ち着いてきたら、自然の呼吸に任せてください」
言うとおりにやってみると、確かに吐く息を長くするとリラックスできるようだ。慣れてきたので、徐々に自然の穏やかな呼吸に戻していく。
「呼吸が整ったら、体をリラックスさせていきます。まずは右手の指に意識を集中して脱力し、リラックスさせてください。それから掌、手首、上腕、肘、二の腕、肩と意識を移して右手全体をリラックスさせていきます」
そして同じ要領で、左手、右足、左足、腰、背中、首とリラックスさせていく。
「これで全身がリラックスできました。では、自分の体の内側に意識を向けて観察してみてください。疲れていたり、凝って固まったりしているところがありますね」
なるほど。全身をリラックスさせたつもりでも、緩め切れていない箇所がなんとなくわかる…
「では、横を向いて、腕の力も使って、静かに起き上がってください」
言うとおりに起き上がってみると、これだけでもリラックスできているのがわかる。
それから、ラパンツィスキ様の誘導で、いろいろなポーズを付けていく。
猫のポーズとかちょっと恥ずかしいポーズもあったけれど、自分の体がいかに凝り固まっているか思い知ることになった。
一本足で立つ立木のポーズなど難しくてぜんぜんできないものもある。
「いずれ少しずつできるようになりますよ」とラパンツィスキ様は微笑した。
お手本を見せてくれているラパンツィスキ様は足に根が張っているかのように安定している。
本当にあんなことができるようになるのだろうか…
最後に亡骸のポーズをしながらラパンツィスキ様に体をリラックスするよう誘導されると心地よく、心と体がすっきりとやすらいだ。
体の血流が活性化し、神経も落ち着いているのがわかる。
なるほど。心と体は繋がっているのだなと実感した。
心と神経が緊張して体に影響が出るのであれば、逆に体からアプローチして心と神経を緩めるというやり方もありなのだな…
一日の始まりにこれをやれば、気分良く過ごせそうだと思った。
なんだかんだで、薄っすらと汗をかいていたので、部屋へ戻ると早速に普段着に着替えた。
そこに侍女のワンダがちょうど朝食を持ってやって来た。
この世界での食事は基本的に昼食と夕食の2食で、昼はがっつり食べ、夕食は軽くというのが習慣だ。
だが、貴族などでは軽く朝食を食べる者もいた。
ラパンツィスキ様の勧めで、今日からは朝食にオートミールとヨーグルトにフルーツを少量いただくことにしていた。
気鬱の病になってからは、私は便秘気味になっており、気が重い原因の一つにもなっていた。
ラパンツィスキ様の話だと、オートミールやヨーグルトは腸の消化を助けてくれる働きがあるらしい。
ラパンツィスキ様と2人で朝食をいただく。
「今日はスタンダードなミルク粥ですが、毎日だと飽きるので、料理法にバリエーションをつけるように料理人に伝えておきますね」
「ありがとうございます。どんなものが出てくるか楽しみですね」
そして私は、読書をしたり、ハーブティーを楽しんだりして1日をゆったりと過ごすのだった。
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