1話 幽世帝都の探偵さん

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 まだ膝が震えているけれど、どうにか自分で歩けそうだ。鈴の音の青年が、ずっと肩を支えてくれていたからだけれど。そっと手を握られる。大きくて暖かい手だ、とあやめは思った。 「下を向いていて。僕についてきて」 「は、はい」 「いいかい、僕の手を離してはいけないよ」 「……はい」  手を引かれて駅舎を歩く。  周囲を見ないように、ずっと地面を睨みつけながら歩いた。  駅舎を抜けて、町中を進む。  ずいぶんと歩いたころに、男が足を止めないまま「もういいだろう」と言った。  その声にあやめが、おそるおそる顔をあげると── 「え、ここどこ?」  夕焼け空。  レンガ造りのレトロな建物。  その間に揺れる、赤い提灯。  見たこともない街並みが広がっていた。  あやめは東京駅にいたはずだ。けっこう歩いたとはいっても、せいぜい一駅くらいのはずだ。それなのに、コンクリートの建物の立ち並ぶ東京の街が、どこにもない。 「ああ、やはり君はウツシヨから来たんだね」  絶句しているあやめに、男が言った。 「ウツシヨ?」 「君たちの世界のこと。あやかしと不思議なき世だ」
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