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「えっと、東條あやめです」
「よろしく、あやめさん」
「あ、はい、よろしくお願いします。楢崎……さん?」
「できれば、龍彦と呼んでもらえると嬉しい」
「龍彦、さん」
初対面の男性を名前で呼ぶのは初めての経験だった。
龍彦は満足そうに頷いて、あやめを事務所の中に迎え入れた。
◆◆◆
事務所の中には、書類が山積みになっている大きなデスクと応接ソファがあった。デスクは龍彦のものだろう。ソファに座っているようにと勧められた。
部屋の中で一際目立っているのは、おじいさんと時計の童謡で歌われているのにそっくりの柱時計だ。
やはり全体的にレトロな感じをうける。
あの気味の悪い影法師がいないことで、あやめはかなり落ち着きを取り戻していた。
「あれ、お茶ってどうやって淹れるんだろ?」
龍彦に促されるままに皮張りのソファに座っていると、台所からそんな龍彦の声とともに、ガッシャンという不穏な音が聞こえてきた。
「うわぁ、茶筒が!」
「あの……お茶、私が淹れましょうか……?」
さすがに黙っていられなくて台所に顔を出すと、龍彦が心底嬉しそうに笑った。
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