1話 幽世帝都の探偵さん

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「えっと、東條あやめです」 「よろしく、あやめさん」 「あ、はい、よろしくお願いします。楢崎……さん?」 「できれば、龍彦と呼んでもらえると嬉しい」 「龍彦、さん」  初対面の男性を名前で呼ぶのは初めての経験だった。  龍彦は満足そうに頷いて、あやめを事務所の中に迎え入れた。 ◆◆◆  事務所の中には、書類が山積みになっている大きなデスクと応接ソファがあった。デスクは龍彦のものだろう。ソファに座っているようにと勧められた。  部屋の中で一際目立っているのは、おじいさんと時計の童謡で歌われているのにそっくりの柱時計だ。  やはり全体的にレトロな感じをうける。  あの気味の悪い影法師がいないことで、あやめはかなり落ち着きを取り戻していた。 「あれ、お茶ってどうやって淹れるんだろ?」  龍彦に促されるままに皮張りのソファに座っていると、台所からそんな龍彦の声とともに、ガッシャンという不穏な音が聞こえてきた。 「うわぁ、茶筒が!」 「あの……お茶、私が淹れましょうか……?」  さすがに黙っていられなくて台所に顔を出すと、龍彦が心底嬉しそうに笑った。
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