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「いいのかい? お客様なのに、悪いんだけど」
「お茶汲みなら慣れてます。この急須使っていいですか?」
「もちろん!」
「お茶っぱは……少し残ってますね」
床に落ちている茶筒を拾い上げると、何杯か分のお茶っ葉は残っているようだった。煎茶の香りが鼻をくすぐる。
やかんで湯を沸かそうとして、あやめは手を止めた。
コンロがある。あやめのアパートにあるコンロとほとんど同じ見た目だ。
けれど、五徳はあるのにガス火をつけるためのつまみが見当たらなかった。
「ごめんよ。その間に僕はこっちの掃除をするから……えぇっと、箒はどこだったかな」
「あの、龍彦さん」
「なんだい?」
「火はどうやって着ければ……?」
「そうか、すまない。そういえば、ウツシヨとは違うところだったね……そこの棚に紅色の符があるだろ」
「符って、この切符みたいなやつですか?」
棚には小さな箱があった。マッチ箱ほどの大きさの木箱を開けると、見慣れない文字の書かれた切符のような紙切れが入っていた。
「ああ、そうだよ。貸してみて……そらっ!」
「わっ」
龍彦が「ふぅっ」と符に息を吹きかけ、コンロの上に落とした。
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