1話 幽世帝都の探偵さん

14/59
前へ
/59ページ
次へ
 符が一瞬、小さな蝶の姿になってから、ぼぅっと燃え上がって見慣れた青い火になった。 「この符は、カグツチ様のご利益だね」 「カグツチ様……ご利益……」 「家庭用の火の神様の符、ってところかな」  龍彦はそう言って、ふんわりと笑った。  訳のわからないことだらけだが、どうやらこの人は信用できそうだ。  あやめは手早く煎茶を淹れ、丸盆で二人分のお茶を運ぶ。  どうにか床掃除を終えた龍彦が、「とっておきだよ」とカステラを出してきてくれた。 「まぁ、ようするに異世界に迷い込んだとでも思ってくれればいいよ」  真っ黄色のカステラを切り分けながら、龍彦が説明をしてくれる。  ここはカクリヨ──幽世──といって、霊的な存在があたりまえに存在する世界らしい。ここの住人はあやめの世界であるウツシヨ──現世──からは認知できない。ときどき混線がおきることがあって、その場合は幽霊のように見えるらしい。 「ウツシヨとカクリヨは、すぐ隣にあるけれどお互いに行き来はできないんだ。普通はね」 「普通は、ですか」 「うん。たまにそういう事故が起きるけど、そっちでは神隠しって呼ばれているらしいね……はい、カステラどうぞ」
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加