1話 幽世帝都の探偵さん

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 世の中に、自分の思い通りになることなんて、ほとんどない。  そんなことは、嫌と言うほどにわかっている。  まずは見た目だ。  やたらと太い黒髪に特徴のない目鼻立ち。色が白いのは褒められたことがあるけれど、他にはこれといった特徴がないからだろうと自分でも思う。  地味な脇役。それが自分。それがお似合い。  それは、あやめがこうあってほしいと望んだわけでも嫌だと願ったわけでもなく、ただただ「そう」なのだ。  まぁ、それにしたって奮発して訪れた都心の美容院でまさかおかっぱ頭にされるとは思わなかったけれど。 「帽子、買おうかな……いや、いや……お金は大事よね、無職だし」  頭の中で心許ない預金残高や失業保険の足し算引き算を繰り返す。うん、帽子はやめよう。脇役の髪型がおかっぱ頭だって誰も気にしないけれど、失業保険をもらえるまでの生活費は大いに気にしてしかるべきだ。どう考えても、ギリギリすぎるし。簡単な算数の問題。  算数をはじめとした学校の成績も、悪くはなかった。  けれど、悪くはないだけ。  決して主役になれるようなものではなかった。  それは、あやめが望んでそうなっているわけではなかった。
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