1話 幽世帝都の探偵さん

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 生まれる実家も、選べない。  あやめの実家は少し変わった家業をしている家系だ。  けれど、色々あってあやめが家業を継ぐこともなく、むしろ実家とは疎遠になってしまった。そんな自分の身の上を考えるたびに思い知る。  人生はままならない。  自分の望むものが手に入ることなんて、ほとんどない。  手に入るものが、自分が望んでいるものであることも。  東條あやめはそう思う。  今、あやめは東京駅にいる。  いくつも重なって聞こえる発車オルゴール、寄せては返す波のような雑踏の音。  東京駅は、ただの駅ではない。  主役を夢見て東京にやってくる人たちを象徴する場所だ。羽田と成田に空港ができても、それは変わらない。新幹線の乗り場に近づけば近づくほど、主役の表情をした人たちで溢れかえっている。  東京駅の待ち合わせスポット、銀の鈴のモニュメントの周辺もそうだ。  スマホやSNSが発達しても、待ち合わせスポットというのはいつまでも元気だ。渋谷のキュートな金属ワンコしかり。
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