1話 幽世帝都の探偵さん

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 人待ちをする人たちというのは、どこかそわそわとしていて活気を感じる。  乗り換えついでに東京駅をぶらつこうと思ったことを、あやめは後悔していた。 「うわぁ、失業した日に来る場所じゃなかったな。場違いよ」  そう、あやめは失業者だ。失業したてホヤホヤだ。  今朝、いつも通り出勤したら会社が潰れていた。シャッターに張り紙一枚がぴらぴらしていて、事務所はもぬけの殻だった。夜逃げというやつだ。  慌てて会社の知り合いに連絡をとった。社長を含む何人かからはブロックされていて、何人かとは連絡がとれた。他の従業員たちはこの夜逃げのことを知っていたらしい。  あやめだけが、のんべんだらりと日々を過ごしていたというわけだ。急な失業はもとより、自分がほんのり仲間外れにされていたようだという事実がキツかった。  頭が混乱して、もうだめだと思って、やけくそになって都心の美容院に行った。気分を変えたかったし、もっと言えばこの不運で地味な脇役とは違う誰かになりたい気持ちだった。仕事用のスーツを着ている客は、あやめだけだった。
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