1話 幽世帝都の探偵さん

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 「お似合いですよ」という言葉とともにカットが終わり、古風で地味なおかっぱ頭になった鏡の中の自分を見て、急に実感した。  ああ。やっぱり自分は脇役だ、と。  無職になってしまった。その事実がじわじわと実感に変わっていった。  実家に頼らず女ひとりで生きるなら都会へ、と考えて東京に出てきた。  それから今まではなんとか上手くやっていたような気がするが、結局このザマだ。早々に次の職場を見つけなくてはいけない。  とぼとぼと歩く。足が重い。  東京駅にやってきたのは、乗り換え立ち並ぶお土産屋さんやレストランを見て回ったら少しは気分が晴れるかと思ったからだ。結果は余計に惨めになっただけだけれど。  あやめは逃げるように東京駅を闇雲に歩き回る。外の空気が吸いたい。迷路のような構内を歩いて、出口を探した。  楽しそうな喧騒。  活気のあるざわめき。  すべてが煩わしかった。ここから消えたい。消えてしまいたい。電車に飛び込んだりとか、ビルから飛び降りたりとか、そういうのは痛そうだし怖いし嫌だ。  どこか、ここではない場所に、消えてしまいたい。
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