1話 幽世帝都の探偵さん

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(って。やだな、さすがにネガティブになってるっぽいなぁ……)  普段はそんなことは考えたりもしないのに。  どんなに脇役でも地味に生きていく、世界の片隅でひっそりとなんとかやっていく。それがあやめの生き方だ。死にたいなんて、なんだか誰か別の人の考えが頭の中に割り込んできたようで気持ちが悪かった。  今日は早く帰って眠ったほうがよさそうだ。明日になってから、今後のことを考えよう。そんなことを考えながら、歩いていた。 「……ん?」  気がつくと、周囲に人がいなくなっていた。  天井が丸いドーム状になっている、ホールのような場所に立っていた。 「え、あれ?」  周囲を見回す。  床には幾何学模様のタイル。ドーム状の天井には鳩、柱には動物のレリーフが並んでいる。柱にはそれぞれ違った動物の彫刻があしらわれているようだ。  牛、虎、竜に蛇に猪……干支だろうか。そういえば、昔の東京駅にあった装飾を復刻したとかいうニュースを聞いた気がする。  周囲には、誰もいない。  昼過ぎの東京駅に、誰もいない。そんなことがありえるのだろうか。  声や足音すら聞こえないなんて……。  さらに。
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