1話 幽世帝都の探偵さん

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 もう一度見上げた天井に異変があった。 「きゃああ!?」  干支のモニュメントが、ゆっくりと動いているのだ。  それぞれの動物に見合った動きで、時計回りに歩いているのだ。  ぞわ、と背筋が震えた。異常だ、これは異常な現象だ。 (まずい、これ……よくない!)  身体の感覚にも、異変が起きる。  立ちくらみのように、視界がゆらぐ。  まるでものすごい速さで降っていくエレベーターにでも乗っているような、ぐわんぐわんと重力が揺らぐような感覚に襲われる。  しばらく、金縛りにでもあったように立ち尽くしていた。 「だ、誰か!」  やっと体が動くようになって、あやめは叫んだ。走り出す。  怖い、と思った。  誰か人はいないのか、悪い夢なら覚めてくれ。  どこかに消えたいなんて思って、ごめんなさい。  少し走っていると、雑踏の音が戻ってきた。けれど、歩いているのはまるで影法師のような人影だ。かろうじて和服のようなものを着ていることはわかるけれど、明らかに人間じゃない。  その人影たちがあやめをじろじろと見ているのを感じる。意味がわからない、恐ろしい。 「嘘、嘘、嘘……なにこれ……」
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