1話 幽世帝都の探偵さん

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 走っても走っても、見知った東京駅には辿り着かない。  ゆらゆらと不気味な影が行き交っている、奇妙な駅舎から出られない。  もう、だめだ。  恐怖とパニックが最高潮に達して、その場に座り込んだ。  ぎゅっと目を閉じる。  消えたい、消えたい、消えてしまいたい。  そんな声が頭の中に響く。 ──どうして、お前は言われた通りにできない。 ──ご先祖さまも代々やってきたことなのに、みんながやっていることなのに。 ──役立たず、お前なんかいらない。失敗作め、できそこないめ。  消えたい。消えたい。助けて、消えたい。  あやめが過去に聞いてきた声と、消えたいと叫ぶ声とがぐるぐると渦を巻く。  吐きそうだ。気持ちが悪い。影法師たちも気味悪い。  あやめは叫んだ。声にならない声で、叫んだ。  誰か、助けて。 ──そのとき。  りん、りん。  涼しげな鈴の音がした。 「……ねぇ、君」  柔らかい声がして、そっと肩を叩かれた。  わずかに顔を上げると、真っ黒い瞳と目があった。  柔和な笑みを浮かべた青年だ。俳優かと思うくらいに整った顔をしている。
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