隣人

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平日のこの時間だからだろう、利用客の年齢層は高い。 湯気が立ちこめる中にいると、どうしても青島と言った温泉旅行を思い出してしまい、悲しくなった。 今日、青島が会いたいと言ったのは、きっと未来との約束を守るためだろう。 駄目だと思ったら、すぐに言って欲しいと頼んだのは、未来自身なのだから。 それに涼子から、未来が知ってしまったことを聞いて、仕事をほったらかして逃げてきてしまったことに呆れているかもしれない。 さっき見た二人の姿を思い返してみたものの、それ以上にもそれ以下にも考えは及ばず、未来の中で拒否反応を起こしているようだった。 すると目の前の湯気が不規則に揺らいで、未来よりも倍以上は年を重ねているであろう小柄な女性が、ゆっくりと湯から上がろうとしていた。 反射的に会釈をした未来は、何か言われた気がして顔を上げた。 「まだまだよ。」 「えっ?」 「人生が終わったような顔をしてるけど、まだまだよ。」 その優しい目と穏やかな微笑みに、未来は恥ずかしくなって、あっと気の抜けた声しか出せなかった。 まだまだだとしたら、私はあの女性のように穏やかに笑えるような日が来るのかと思ったが、今は全くそんな気がしなくて、余計に落ち込んだ。 髪を乾かし、コインランドリーに行くと、同じ格好をした王が、もう既に座っていた。 どこにも行けるはずがないのに、それでも王は、未来の顔を見た途端、安心したように笑った。 こんな場所でも、かっこいい年下の男の子を前に、お風呂上がりというのは気恥ずかしくて、少し距離をあけてから、未来はまる椅子に座った。 「ダイジョウブ?」 王の言葉に、うんと頷く以外の返事は持ち合わせていなくて、合言葉のように答えた。 二つの洗濯機がせわしなく動いて、やがて笛のような音が鳴った。 「終わった。」 未来の言葉に今度は王が頷き、二人は揃って立ち上がると、濡れた服を乾燥機に入れた。 「アッチデ、ナニカノム?」 乾燥機の蓋を閉めると、王が首を傾げて言った。 「うん、喉が渇いたね。」 自動販売機の前まで来て、財布をロッカーに入れたままだと慌てる未来に、王がスポーツドリンクを差し出した。 「ありがとう。あとで返すね。」 「イイデス。キニシナイデ。」 そう言って、王は自分の分のスポーツドリンクを買うと、寝そべることも出来る畳の広間に未来を誘った。 足を伸ばして座ると、まるで家でくつろいでいるような気分になって、ホッとする。 スポーツドリンクを一口飲むと、思いのほか喉が渇いていたのだと気付かされて、一気に半分も飲んでしまった。 そうしているうちに未来は、ぽつりぽつりと今日あったことを王に話し始めていた。 何も聞かず寄り添ってくれる王に、事情を話さないと言うわけにはいかなかったし、何より未来が聞いて欲しかったのかもしれない。 「マサカ。チガウデショウ。」 青島が女性と一緒に出張から戻って来たと聞いた 王は、とても驚いた。 最近の二人の様子こそ知らないが、青島の未来に対する思いは、過去に自分に向けられた青島のたぎるような視線を思うと、揺るぎないもののように思えた。
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