派遣会社の営業さん

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派遣会社の営業さん

 島沖螺香(らか)は、様々な職場を短期間で渡り歩く派遣社員である。  現在は、霞が関にある大手企業DKJでRSS派遣サービスから派遣されて働いていた。  デスクで事務作業をしていると、目の前の電話が鳴った。 「お電話ありがとうございます。DKJです」 『RSS派遣サービスの佐藤(やすし)です』 「佐藤さん? 島沖螺香です。ご無沙汰しております」 『月一の定期連絡です』  佐藤康は、前に派遣されていた商名井不動産浅草橋本店の営業担当だ。  現在の担当は中林由紀という若い女性で、定期連絡は彼女からくるはずである。  担当エリアも企業も違うし、彼から電話をもらう理由はないのだが、顔なじみであり、同じ派遣会社でもあるので、特に不審を感じることなく電話を続けた。 『何か困ったことはないですか?』 「特にありません」 『立替え払いなど、されていませんか?』 「立替えはありません。現金を預かることはここではありません」 『問題があるようなら、先方にお話しします』 「いえ、大丈夫です」  話が通じなくて辟易した。 『電話では込み入った話もできないでしょうから、直接お話しできませんか?』 「分かりました」  おそらく、周囲を気にして本音を言えないでいると心配しているのだろうと想像した。  電話のやり取りで誤解が生じてはいけないので、勤務中ではあるが、外で会うことを承諾した。  近くに座っている派遣先の上司に許可をもらう。 「すみません。派遣会社の営業さんが話したいというので、10分ほど出てもいいですか?」 「どうぞ」  許可をもらって職場を抜け出すと、指定の喫茶店で佐藤と会った。  佐藤は40代前後の男性である。  大きな顔に太いモサモサ眉毛、大きな目。大きな鼻。大きな口。大きな手。  すべて大きいが口調は優しい。 「相性の合わない人とは、どうですか?」 「いえ、今はそのような人はいません。みなさん、いい人達です」 「派遣先に相談することも可能ですから、何でも打ち明けてください」 「大丈夫です」  ここでもやはり会話がかみ合わない。  佐藤の質問内容は、商名井不動産へ派遣されていた時の不満で、何かと佐藤に相談していた内容だと気が付いた。  経費の払いが悪かったり、いじわるな社員がいたりして悩んでいた。 (この人、こんな人だったっけ?)  当時も有能と感じたことはなかったが、さすがにこのようなことはなかった。  少しずつ変だと感じ始めた島沖螺香は、違和感を確かめるため、商名井不動産について質問してみることにした。
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