献身のジム

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献身のジム

 きっかけは私が、彼の怠慢を怒ったことだった。 「あのね!いくらなんでも酷くない?今起きたとこってどういうこと、こっちは一時間も待ってたんだけど!!」  お互い仕事が忙しかったのは認めよう。それでも二ヶ月前に何度も相談して決めたデートをすっぽかすとはどういう了見なのか。そりゃ、カノジョが私でなくても怒るのが普通だろう。ちなみに一時間も音沙汰なく待ちぼうけを食ったのも、何度電話しても向こうが出なかったからというのが理由である。電車に乗ってるから出られないのかな、と気楽に思って律儀に一時間も待ってしまった私もどうかとは思うが。 『ごめん紗友美(さゆみ)。昨日ほんと、遅くまで飲んじゃって……完全に二日酔いで寝坊したんだ』 「バカでしょ!?私、ちゃんと明日はデートだからねって念押しのLINEまでしたのに!」 『本当にごめん。……具合悪すぎて全然動けないんだ。今日は外に出るのも無理かも。デートはまたでお願いしたいします……』 「はぁ!?」  何馬鹿なこと言ってんの、と言おうとしたところで酷い騒音が入った。ガタンガタンと電車の音がする。向こうでまだ何かを喋っている様子の彼だったが、電車の通過音に遮られて殆ど聞き取れなくなってしまう。 『そういうわけだから、ごめん。じゃあ……』 「ちょっと!ねえちょっと!」  文句を山程浴びせてやりたかったのに、電話は切れてしまった。私は駅前のベンチで呆然としたまま、暫し行き場のない怒りを持て余すことになったのである。
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