献身のジム

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 ***  春来(はるき)と私が付き合い始めたのは、大学三年生の時だった。人間、真逆の性格のほうがうまくいくこともあるというが、まさに私達はその典型だったように思う。学業は苦手だけれど陸上部でガンガンに走ってきた私と、天文部所属の大人しく頭のいい春来。同じゼミでなければ、顔を合わせる機会もなかったに違いない。お人好しでそそっかしくて鈍臭い、そんな彼を見かねて私が声をかけたのがきっかけだったのではなかろうか。  なんせ彼と来たら、腕力もないくせにお年寄りの荷物を大量に抱えてふらふらしながら横断歩道を渡っていたのである。こんな絵に書いたようなお人好しが東京にもまだいたもんだ、と半分呆れ、半分感動したものだった(ちなみにその時の荷物は結局半分以上を私が持った。運動部とはいえ、女性より腕力と体力がないというのもなかなかすごい話である)。  他のゼミ生のレポートを手伝ったせいで自分の勉強が危うくなったり、先生に気になったことを質問し過ぎて帰るのが遅くなったり。勉強熱心で面倒見が良くて後先考えない――多分そんな自分には持ってない要素に惹かれたのだと思っている。まあ、デートはいつも私がリードしていたし、それはお互い社会人になってからも同じではあったのだが。 ――それにしたって、二ヶ月前に決めたデートをすっぽかすか、普通?  デート以外にこの街で予定はなかったが、このまま即帰ったら電車賃が無駄になる。なんのために五つも向こうの駅まで来たと思っているのか。やけ食いでもして帰るか――そこまで思った時、ふと私は違和感を覚えた。 ――そういえば。最近急に、だよね?アイツが約束をすっぽかしたり、遅刻したりするようになったの。  大学生時代の彼は、こっちが気にしなければならないほどマメな男だった。初デート記念日もしっかり覚えてたし、むしろこっちが忘れるような記念日も全部覚えてたくらいだ。誕生日は二ヶ月も前から“何がいいかな”なんて訊いてきたくらい。夜に電話しようかと約束したら、熱があっても電話をかけてきて“いいから寝てろ!”と私に怒鳴られたくらいだ。
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