献身のジム

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 真面目だし、律儀。それでいて、超絶不器用なほどの気ぃ使い男。二ヶ月も前にデートの約束をしたのだって、新入社員のうちは仕事がいそがしくなりそうだし、少し間をおいてからにしようと向こうから言い出してきてのことである。六月くらいには仕事にも慣れてバタバタも落ち着いてきているだろうから、と。  彼がまさに言った通りで、六月の今はGWの繁忙期も過ぎ、私も仕事が落ち着いてきた頃だった。日曜日に出かけるくらいの余裕はあるかな、と思うくらいには。だが。 ――そういえば、四月からもうあいつ、夜の電話かけてこなくなったんだっけ。  普通の女の五倍は勝ち気で男勝りな自覚はあるが、私も一応女である。電話がかかってこなくなったり、ラインの返事が来なかったりすればそりゃ落ち込むし、愛が冷めたのではと疑うものだ。が、それとなくLINEで別れを仄めかすと、春来の方が泣きそうな勢いでメールしてくるのだから疑う気も失せるというものである。そもそも、こいつにそんな甲斐性があるとも思えないし、こう言ってはなんだが女にモテるタイプでもないはずだ。  電話やメールの無視、電話しますという約束も無視、しまいにこのデートのすっぽかしと来ている。本来なら、もう自分たちの関係も終わりかと諦めそうなところなのだが――考えてみればみるほど、どうにも不自然な点が目立つのだ。  一番はそう、彼の急変ぶりが以前の彼からは考えられないということ。四月から、どうにも彼の様子がおかしい。 ――そういえば。……あの春来が二日酔いってどういうこと?  大学のゼミ仲間と飲んだことは何度かあるが、私の記憶が正しければ彼は一度もお酒を飲んだことが無かったのではなかろうか。先輩に進められても全部断っていたような気がする。何でも極端な下戸な上、以前飲んで大失敗したからもう醜態は晒したくないと言うのだ。 『記憶にないんだけど、凄い泣き上戸だったんだって。……無理だって。気まず過ぎるって』  どれだけ薦められても断りまくっていた彼が、仮にいくら会社の上司に言われたとしても二日酔いするほと飲んだりするものだろうか。電話ではつい怒ってしまったが、ひょっとしたら自分の意志ではなく誰かにむりやり飲まされた、というものではないか。声もガラガラに嗄れていたし、二日酔いというのは恐らく本当だろうと思うから尚更である。
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