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死神の来訪
わしの名前は古橋源三、83歳じゃ。
わしは現在、とある民家にて1人暮らしをしておる。
妻に先立たれ、子供達は独立しておるからの、もっとも婆さんが死んで6年経ち、それ以来子供達とも疎遠になっておる。盆も正月もわしに顔を見せることがなくなった。
小学生だった孫はもう高校生くらいになっておるじゃろうが、写真すら送ってくれんからどう成長したか分からんわ。
そもそもわしと子供達はそれ程仲が良かったわけではなく、むしろあいつらはわしのことを嫌っておった。
婆さんが死んだときに長男とこんなやり取りをしておった。
「なあ、親父」
「なんじゃ?」
「母さんが死んでしまったから、もう俺達ここに来ることはないと思う。もし困った事があったら、ここに連絡すればいい、最低限の生活の面倒はみてくれるだろうから」
長男がわしに渡したのはNPO法人とかいう所の電話番号だったが今にして思えばわしの返事もそっけなかったかもしれん。
「そうか、分かった」
わしのこの言動に長男が激昂し、わしに対して、叫びだす。
「それだけか?母さんが死んでも相変わらず俺達には無関心なんだな!怒りを通してあきれるぜ!」
「なんじゃ?いきなり」
「そもそも俺達は母さんがいるから時々帰っていたようなもんなんだぞ!実際、あんたは俺達とほとんど会話をしなかったじゃないか!」
「何故、それを今になって言うんじゃ?」
更に長男はわしの言動に対し、語気を強めてきた。
「今だからだよ!あんたは俺達がガキの頃から仕事、仕事でたまの休みでもまるで俺達を見てるか見てないか分からなくてまともに会話が成り立ってたとはいえないじゃないか!」
「……」
「母さんがいなけりゃ、そんな会話してるかどうか分らん人のところにわざわざ来る必要もない!葬式くらいは出てやるから、ありがたく思えよ!」
そう言い終えてから長男は部屋から出ていき、挨拶もせずに自分の家族と一緒に今の自分の住んでる家に戻っていった。
他の子供達もそうじゃ。
確かに長男の言う通り、わしは仕事仕事で子供達とまともに向き合ってこなかった。
そもそもわしはあまり人付き合いが得意でもなかったからな。
婆さんと結婚したのだって会社の上司に見合いを勧められ、そのまま結婚という形じゃ。
婆さんを愛していたかというと自信はない。
じゃがわしが仕事で忙しく、子供達にかまえなかった時も、しっかりと育ててくれたことに感謝しておる。
とうとう言えずじまいで婆さんは逝ってしまったがな。
結局わしには何も残らずこのまま死ぬのかと思った。あやつが来るまではな……。
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