ループ・ザ・館

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その光景を見て尚斗は叫ぶ。 声に反応するかのようにドタドタと足音が聞こえてきた。 大貴だ。 「尚斗! どうした!? ッ・・・!!」 大貴がやってきては死んでいる沙里を目にし絶句した。 「大貴・・・」 震える身体を抑えつつ必死に首を動かし大貴を見る。 そして訴えかけるように見つめた。 「大貴・・・。 お前が殺したのか・・・?」 「ッ、はぁ!? どうして俺が沙里を殺すんだよ!」 「だってここには俺たち三人しかいねぇだろ!?」 食事が用意されていたことからこの館に誰かがいる可能性は高い。 だが何故かは分からないが、誰とも分からない誰かが殺したようには思えなかった。 「そういうお前こそ、今沙里を殺したんじゃないのか!?」 「俺は沙里のことが好きだったのに、どうしてそんな俺が沙里を殺すんだよ!」 「そんなの俺だって同じだ! その言葉はそっくりそのまま返してやるよ!!」 「俺が今沙里の部屋を開けた時には、既に沙里はこの状態だったんだ!!」 「ッ・・・!」 まだ死んでから時間は経っていないのは血液の状態から何となく分かる。 もっともここへ来てから大して時間も経っていないため、当然と言えば当然だった。 「今ここで俺が殺すっておかしいだろ。 どうして俺は声を上げたりするんだよ! 普通殺したら隠したり、アリバイ工作したりするだろ!?」 「・・・確かにその通りか。 じゃあ、本当にやっていないんだな?」 「好きな女を殺す馬鹿がどこにいる? つーか、状況的には俺よりも大貴の方が怪しいんだからな」 大貴は視線をそらした。 「俺もやってねぇよ。 今自分が言ったじゃないか。 好きな女を殺す馬鹿がどこにいる、って。 ・・・まぁ、とにかく尚斗のことは信じるよ」 その言葉に安堵した。 今は言い争っていても仕方がないのだ。 「とりあえず警察に連絡を」 「電波は届かないんじゃなかったか?」 それを聞いた大貴はムシャクシャするように頭を掻いた。 「あー。 そうだったな。 でもこの館に電話があっただろ? それなら繋がるかもしれない」  そうして電話のあるところへ向かった。 だがかけてみるも繋がることはなかった。 「・・・駄目だ。 繋がらない」 「繋がらない電話がどうして館に付いているんだよ・・・ッ!」 「アンティークっぽいからな。 ただの飾りで置いているのかもしれないし、昔は繋がっていたのかもしれない」 「それもそうか・・・」 電話が繋がらなければ次に何か手を打たなければならない。 今になって改めて思うが、どう考えてもこの館は怪しい。 だが沙里をこのまま放置しておくわけにもいかなかった。 「じゃあ外へ出て助けを呼んでみるか?」 「周りは全部森だったぞ? 外に人なんているのか? いやそもそも、助けを求めたら沙里を殺した容疑者は俺たちになるぞ?」 「警察に連絡をするのと一緒だろ! 沙里が死んだ原因が分からない。 俺たちの命の危険もあるんだ!」 「・・・まぁ、そうだな」 とりあえず館の中にいたくないと思った二人は、玄関から出ようとする。 だが鍵をかけた憶えはないのに何故か扉が開かない。 「嘘だろ・・・」 「開かないのか?」  大貴と協力し開けようとしても無理だった。 体当たりしてみても見た目以上に頑丈で開く気配すらないのだ。 「じゃあ次は窓だ!」 「・・・ッ。 駄目だ! 窓も開かない!!」 「なら他の窓も徹底的に確かめろ!」  一階と二階の窓を全て調べるも、全て締まっていることが確認できた。 だが三階の窓は何故か開いていた。 今二人は三階の窓から下を見下ろしている。 「ここから降りてみるか?」 「止めておけ。 ここはデカい館だから三階でも相当な高さがある。 暗いし壁を伝っていくのは流石に危険過ぎだ」 「だよな・・・。 誰かぁー! 聞こえますかぁー! 助けてくださーい!!」 大声を出して助けを呼んでみたが、やはり声が木霊するばかりで何も反応がない。 恐怖と疲労、尚斗の精神は既に限界を迎えようとしていた。 「・・・俺、もう無理かも」 「は? ・・・どうして諦めてんだよ」 何といっても沙里が死んでしまったという事実が尚斗の全身から力を奪っていく。 生きる希望がどこかから抜けていき、虚無感に包まれていく。 「よく今の状況を考えてみろよ。 沙里は死んで、俺たちはこの館に閉じ込められているんだぞ?」 「そうだけど」 「いつ俺たちも死ぬのか分からない。 そんな不安な状況で生きていたくない」 「考え直せ! まだ解決策はあるかもしれないし」 尚斗は窓枠を掴み足をかける。 それを見てか大貴がギョッとした表情で息を呑んだ。 「俺たちが助かっても! 沙里はもう助からないんだぞ!!」 「ッ・・・」 「・・・ごめん、大貴。 意気地のない俺で」 「そんなことを言うなよ・・・」 「大貴と親友になれて本当によかった」 「・・・」 大貴はもう止めることはなかった。 もしかしたら彼も既に精神が折れてしまっていたのかもしれない。 「一つ心残りがあるとすれば、自分の気持ちを沙里に伝えていなかったことかな・・・」 そう言って尚斗は三階の窓から飛び降りた。 頭上から大貴の叫び声が聞こえてくる。 尚斗は地面に叩き付けられそのまま死ぬ――――はずだった。 ―――・・・あれ? しかし痛みもなければ、地面に横たわっていることもない。 ただ唐突に視界が切り替わり、先程までいたはずの三階でも窓から落ちた先でもない。 何故か館の中の玄関にいたのだ。 「二人共! やっぱり鍵が開いているぜ」 「本当だ! ラッキー!」 殺人現場とはとても思えない能天気な二人の声。 そう、二人の声だ。 ―――・・・何だこれ、夢でも見ているのか? 館の扉に手をかけ入ろうとしているのは死んだはずの沙里と大貴。 そして一つ言えることはこれが走馬灯ではないことだった。 ―――俺の身体も怪我一つない。 外傷どころか痛みすらない。 どうやら飛び降りたはずだったのに、飛び降りていないことになっているようなのだ。
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