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第8章
十三年ぶりに会う兄の高国は、実の弟に対して、無感動な視線を向けている。
きっと誰かが『狐獣人が町にいる』と、神官たちに話したのだろう。それが悪意から来るものなのか、ただありがたい話として神官たちに告げたのかはわからないが、町中でフラフラしているところを春国は神官たちに見つかり、捕らえられた。
ひとまず兄の新しい屋敷に軟禁されている。
「春国、お前の処分が決まったぞ」
高国とは小さい頃からあまり接したことはなかった。神社に召し上げられてからは、一度も会ったことがない。
思うに、おそらく意図的に分けて育てられていたのだろう。
「はい、お兄様」
俯きながら声を出した。春国も高国に対して、他人行儀な返事しかしない。
初日、ひとまずここに置いて欲しい、と神官たちに連れてこられた春国を見て、高国は困惑したように眉を寄せただけだった。
屋敷には三日ほど滞在させてもらっている。屋敷から出られないこと以外は何も文句がなかった。
「お前は本当に神社へ戻りたいのか?」
「私にはそれしかないと、知っているでしょう」
春国の前で高国はやや疲れた表情をした。高国は神社と春国の調整役をしている。否、無理やりさせられている。
「本当にそれしかないのか?」
高国の声が少し和らいだ気がして、春国は顔を上げた。
疲れた表情は変わらないが、その目には心配するような色も伺え、春国は意外に思った。兄はもっと春国に対して冷たいのだと思っていたからだ。
それしかないことはないのかもしれない。だが、春国が今、しなければいけないことは、淫祠邪教だろうと、淫らな儀式だろうと、『婚姻の儀』を完遂させて神子として、神話を信じる国や民の信仰を裏切らないことだ。
「はい、それしかありません」
「……わかった。一度、逃げ出したということで以前よりももっと信仰を試されることになるだろう」
春国は高国に向かって、無言で頭を下げた。
肩が震えそうになるのを必死で堪え、兄が出て行くまでその姿勢を保つ。
不安な気持ちが顔に出てしまい、それが兄にバレるのを防ぐためであった。
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